
──村島典子の歌──(18)
村島典子の歌「古代の渚」34首・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・「晶」85号2014/03所載・・・・・・・・
古代の渚 村島典子
木漏れ日は風のまばたき梢から一匹の虫着地せりけり
老犬はひねもす庭にいねながら昨日とちがふ今日を生きをり
去にし人のひとりひとりを呼びながら水辺をいゆく霜月十日
さくら紅葉のしたゆくときし死者の数ふえゆくらむや十指に足りず
鳳仙花はてぃんさぐぬはな朝鮮と琉球に咲くつよくかなしく
夏すだれ外し洗ふと門にいでて振りあふぐ天沖縄につづく
子の手術はじまる頃かおろおろと窓磨きをり愚かな母は
わが少女南の島にこの朝ひとり起きいで登校せむや
枕頭の目覚し時計が子を起す南島の朝はまだ喑からむ
祈りとはかく果敢無くてさびしきか子安地蔵のまへにかがめば
蒼あをとひろごる海を思ふとき樹海の梢波打ちにけり
「生き直す」とつぶやきてみるはらはらと柿は錦のもみぢを散らす
やりすごすといふ感じにて南島のむすめに会ひにゆくまでの時間
*
そらと海奪ひあはむとにんげんの愚かしきかもこの星に棲み
海坂のむかうはわれの知らぬ域東シナ海とその上のそら
花火草はじける昼を渡嘉敷島の港に着きぬ近江びとわれ
人のゐぬ冬の島辺の砂浜に癌病む娘と海を見てをり
蒼穹はこの世のそとへひらかれて生まれしまへの時間をたたふ
星砂の浜にきたりて娘と二人もろ腕ひろぐ飛び立てわれら
ヤドカリの歩みし跡はうつくしき道をなしたり砂丘にのびて
蟹のつけしハの字の跡も道なせば辿りゆきつく小さき巣穴に
殻に息ふきかけヤドカリ追ひだすと少女とわれは力をあはす
蟹の巣穴に棒さしこみて悪さする少女八歳われ六十九歳
引き潮の浜につくりし富士山へ雪を降らせり南島に子は
砂盛りてつくりし富士もゆふぐれは波に攫はれ消ゆべくなりぬ
モモタマナといふ浜に生ふる樹黒き実ををりをり零す泪のやうに
モモタマナ黒き大きな実をこぼす牛の優しきまなこの形
その盛りはや過ぎたれどサガリバナ橋のたもとに見にきたりけり
バクチノキ、ボロボロノキ、アマクサギ、セウベンノキを図鑑に探る
そこまでは古代の渚(なぎさ)蒼穹の渡嘉敷の涯ウン島に来つ
白砂に岩生えしごとくろぐろとビ—チロックは古代の渚
冬の浜に拾ひし貝はスイジガヒ火難の護符なり星のかたちの
クリスマスツリーに星は飾られて渡嘉敷島の満天の星
昨夜(きぞ)浜にあふぎし島の三日月のこよひ近江の湖の上にいづ
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村島典子さんの新作が「晶」誌に掲載され、私に恵贈されてきた。
いつもながらの心象の盛られた、心うつ作品群である。
南の島の嫁がれた娘さんがガンの手術をうけられたようである。
健やかに恢復されることをお祈りするばかりである。
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