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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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武藤ゆかり歌集『ひなたみち』・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
武藤

──新・読書ノート──

     武藤ゆかり歌集『ひなたみち』・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
               ・・・・・南天工房2014/03/03刊・・・・・・

私の敬愛する武藤ゆかりさんの第八歌集『ひなたみち』が刊行され、私のところへも恵贈されてきた。
巻末には「総歌数965首」と書かれている、一ページに六首組みという大部の本である。
南天工房というのは武藤さんの工房ということで、印刷は名古屋のブイツーソリューションである。
武藤さんの歌作りは旺盛で、前歌集『たそがれ通信』も九百首を超えるものだった。本文中で「色の替っている個所」はリンクになっているので参照されたい。

武藤さんには拙歌集と詩集について懇篤、的確な批評をいただいた。
 → 第五歌集『昭和』を読む。 第二詩集『愛の寓意』を読む
いま読みかえしても、その精細な読みに感謝するばかりである。
ここに武藤さんの『ひなたみち』の紹介をしようと思うが、私の非力、批評の才の無さを痛感させられるばかりだが、少し書いてみよう。

この歌集に収録の歌の時期は「東日本大震災」前の三年間の歌から成り立っている、という。
第一部、第二部、第三部 という配置になっているのが、編年になっているのだろうか。
武藤さんは茨城県常陸太田市の生れであり、前歌集にもあったが、この歌集にも郷土に因む歌が多く連作仕立てになっているものもある。少し引いてみよう。「第一部」から

 星の宮
*江戸の世は明和五年に建立の星の宮なり堅牢にして
*瑞龍の小野の狼煙いちはやく里へ伝えし峰とこそ聞け
*紙垂ゆれて神に似たれど星の宮こうこうとして天津甕星
*線刻の常福寺村あらわれぬ日没近き石のおもてに
*南窓院三十二代森千里ただひとり鳥居建てしその人
一連二十首の中から抄出した。武藤さんは新聞記者だったので、一連の歌にも巧みに地名を配して作ってある。
原作にはルビが振られているが省略させてもらった。

*猿はもう進化をやめて檻の中で互いに蚤を取り合うばかり
この歌は項目の歌の中で屹立しているようで、厳しい文明批評の体をなしていて秀逸である。

 後ろの海
*人呼んで十五郎穴並びおり日なたを向いて千二百年
*横穴墓掘られた頃の野やいかに田んぼの水に映る青空
*最大級派遣会社の看板の後ろの海が乱反射する
*ひんやりと咲いているなり藪椿墓地への道を誰か先ゆく
*たけのこの泥を落として灰汁を抜く裏の小庭に光は満ちよ
ここに引いた歌は同人誌「りーふ」で読んだ記憶がある。項目名は私なら「十五郎穴」としたいが。。。。。
私の持論だが「地名の喚起力」というものがあり、地名は有効に使いたい。その意味で武藤さんの歌作りには賛成である。

「第二部」から。 ひなたの赤
*水平になるまで開くつもりかな真昼ひなたの赤い花びら
*あこがれに似るは前世の光景か干し草の山を馬に引かせて
*小夜ふけてひとりはたらく洗濯機どこか楽器の音に似ており
*液晶の青うなばらに文字浮きてきょうの出来事伝えていたり
題名になった「ひなたみち」という言葉を探しているのだが、この一連の中にしか該当する歌がないような気がして引いておく。
題名というものは大事なもので、私などは一巻を代表するものだ、と考えているが、いかがだろうか。

*こってりと豆腐の味のする豆腐一丁食べて昼餉としたり
*七七で理想の朝を述べるなら雪どけ水に牛の長鳴き
*こころざし立てて離れるふるさとの軒端に揺れる赤唐辛子
*しろたえの雪に足跡つけてきて枯れ木の幹に手のひらを置く
*きれぎれの息ととのえて仰ぐとき龍脈は我が内にあるべし
*春の陽は路地に忘れた竹箒の先の方から暖かくなる
連作としてではなく、一首で目立つ歌を引いてみた。

「第三部」から。
 富士山登頂記
*台風の洗い清めた山すそに霧たちのぼる吉田口五合目
*丈低き虎杖のみがなびきおり森林限界越えてしばらく
*富士山におわす木花開耶姫おどろくなかれ長蛇の列に
*もう駄目と叫ぶ肺活量もなし涙さしぐむ八合五勺
*寝返りも打てないほどの仮眠室われのみか高山病の吐き気を覚ゆ
*はえぎわに小型電灯ひかるとき血の気の失せた顔は沈みぬ
*星明かり人も明かりの粒となり剣ヶ峰よりしたたる銀河
*富士山はほとほと遠し泥深き田んぼを歩む足取りに似て
*おのおのが同じ朝日に真向かえば携帯電話の中にも昇る
*眼底に旭日光を焼き付けてこころごころに山を後にす
この一連は五十首という長大なものであるが、その中から特徴的な歌を拾った。
私は酸素の薄い登山は体力的に無理だと判っているので、富士山のみならず「山登り」はしない。
武藤さんの何にでも挑戦する好奇心旺盛さに敬意を表しておく。

そろそろ終りを急ぎたい。
 愛という言葉
*ときどきに意味は違えどただ一語愛という言葉われらは持てり
*結末を知ったからとて何になる紐でくくった洋書少々
*観念は何の足しにもならぬゆえ林檎の皮をさりさりとむく
*お昼寝の後ろめたさが消えるのは何歳からか平均的日本人は
*めいめいに買い物袋ぶら下げて縦横斜め向く無言劇

何とも収集のつかない抽出だがお許しいただきたい。
何分、歌の数が多いので、多分に見落としがあるだろうと思うのでお許しいただきたい。この辺で終わりにする。
本のご恵贈ありがとうございました。


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