ガラスを透く守宮(やもり)の腹を見てをれば
言ひたきことも言へず 雷鳴・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
はじめにお断りしておく。掲出の写真はネット上でeco.gooの「ようちゃんの風景」2003/5/24から拝借したものである。
この写真はガラスに張り付いた守宮を撮ったものだが、グロテスクな感じを与えないので、丁度よいと思う。
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るものである。
守宮は主に人家に棲み、壁や天井、ガラスなどに張り付いて明りに寄ってくる虫を捕らえて食べている爬虫類である。
指には吸盤があって、どんなところにも留まることができる。
体の色は環境によって変化するらしいが、私は夜に家で見かけるので灰色の時しか知らない。毒はなく、害虫を捕らえる有益な生き物と言えよう。
ガラスに張り付いている場合は、守宮の腹の中の様子が少し透けて見えるので興味ふかい。
呼吸に応じて喉がひくひくと動くところなど面白い。
それにガラスに張り付いている場合は裏面から見えているわけで、守宮の目からは、こちらは見えないので、彼は気がつかないから、ゆっくり観察できる。
名前の由来は、だいたい家の中に居るので「家守」の意味で、この名がついたと言われている。
鳴声が嫌だと言われるが、私はまだ聴いたことがない。
守宮は家の壁や地下の暗いところに10個ほどの卵を生む。これは私は一度みたことがある。
私の歌のことだが「何々していると」という条件句と、後のフレーズとには厳密な繋がりはない、と受け取ってもらいたい。
文芸作品というものは論理的ではないことが多い。
「こうしたから、こうなる」というものではないのである。まして結句に「雷鳴」というフレーズがある、などが、それである。
以下、守宮を詠んだ句を引いて終わる。
河岸船の簾にいでし守宮かな・・・・・・・・飯田蛇笏
壁にいま夜の魔ひそめるやもりかな・・・・・・・久保田万太郎(カルカッタの飛行場にて)
硝子戸の守宮銀河の中に在り・・・・・・・・野見山朱鳥
灯を待てる守宮雌を待つごときかな・・・・・・・・阿波野青畝
芭蕉葉に二重写しの守宮かな・・・・・・・・阿波野青畝
獄いたるところに守宮の夫婦愛・・・・・・・・大喜多冬浪
静かなるかせかけ踊守宮鳴く・・・・・・・・高浜年尾
膝に蒲団はさみて寝るや守宮鳴く・・・・・・・・沢木欣一
守宮ゐて昼の眠りもやすからず・・・・・・・・上村占魚
守宮かなし灯をいだくときももいろに・・・・・・・・服部京女
昼守宮鳴く経蔵に探しもの・・・・・・・・能仁鹿村
玻璃に守宮眠れぬ夜の星遠く・・・・・・・・長島千城
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