

とんぼ・・・・・・・・・・三井葉子
好きよと書いて
封をして
てがみにするとてがみはわたしの身替りになり
いまごろは
静岡かしら
はるばると
もみじの山を越えて行く
夜になると霜がふる
いちばん逢いたくなるそのときは
七色の魔除けの紐でからだじゅう ぐるぐる巻いて寝ていましょう
そらがあかねに染まるころ
わたしのてがみが発って行く
おお とんぼ
あきつあかねというような
よい名貰って
まちがえないで行けるかしら
わたしのひたいに当るほど
低くとんぼが飛んでいる
ねえ あなた
そのうちに届きます
いまごろは箱根の山をこえている。
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この詩は、三井葉子さんの詩集『草のような文字』(深夜叢書社1998年5月刊)に載るものである。
この詩集には全部で32篇の詩が載っているが、女が男に語りかけるような体裁になっている。
この本の装丁が、昔の源氏物語絵巻のような図版になっていて、まるで「王朝物語」に出てきそうな雰囲気を漂わせている。
三井さんが「王朝風」詩人、と呼ばれる所以である。
その三井葉子さんも、今年一月はじめに亡くなられた。 寂しいことである。
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