
竹杭が十二、三本見えてをり
その数だけの赤トンボ止まる・・・・・・・・・・・・・木村草弥
いよいよ赤蜻蛉の飛び交う季節になった。
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載せたものである。とりたてて巧い歌でもないが、叙景を正確に表現し得たと思っている。
赤トンボというのは竿などの先端に止まる習性をもっており、また、群れる癖もある。
よく観察してみればお判りいただけると思うが、私の歌のように立っている杭の先端すべてに赤トンボが止まって群れているという情景は、よく見られるところである。
この歌は「嵯峨野」と題する一連5首のものである。下に引いておく。
嵯峨野・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
北嵯峨の遊女の墓といふ塚に誰が供へしか蓼の花みゆ
竹杭が十二、三本見えてをりその数だけの赤トンボ止まる
虫しぐれ著(しる)く響かふ嵯峨の夜は指揮棒をふる野の仏はや
輪廻説く寂聴は黒衣の手を挙げていとほしきもの命とぞ言ふ
さわさわと風の愛撫に任せつつうつつの愉悦に揺るる紅萩

赤トンボの「赤」色は繁殖期の「婚姻」色らしく、赤色をしているのは「雄」だという。雌は「黄褐色」をしているらしい。
赤トンボというと、三木露風の歌が有名で、判り易く、今でも愛唱されている。
赤トンボの句を少し引いて終りにする。
赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり・・・・・・・・正岡子規
から松は淋しき木なり赤蜻蛉・・・・・・・・河東碧梧桐
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉・・・・・・・・夏目漱石
肩に来て人なつかしや赤蜻蛉・・・・・・・・夏目漱石
洞然と大戦了り赤蜻蛉・・・・・・・・滝井孝作
赤とんぼまだ恋とげぬ朱さやか・・・・・・・・青陽人
旅いゆくしほからとんぼ赤とんぼ・・・・・・・・星野立子
美しく暮るる空あり赤とんぼ・・・・・・・・遠藤湘海
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