
呼吸(いき)すれば、
胸の中にて鳴る音あり。
凩(こがらし)よりもさびしきその音!・・・・・・・・・・・・・・・石川啄木
石川啄木は短歌というジャンル分けには納まらない詩人である。
写真は、同郷人で終生親友であった金田一京助(左)とのもの。
この歌も三行分かち書きであり、かつ句読点も打ってあり、横文字の感嘆符!まで付けてある。
↑彼についてはリンクにしてあるので、ご覧ください。
「胸の中にて鳴る音」というのは、肺を出入りする呼吸音のことであろうか。啄木はいつも貧窮のうちにあったから、身のうちの呼吸音にも「さびしさ」を感じたというのである。
啄木には
<働けど働けど、わが暮らし楽にならざり。ぢつと手を見る>
というような作品もあるが、ここは、そういう身すぎ世すぎを書きたいとは思わないし、今日は石川啄木について書くつもりは無いので、「木枯し」を詠んだ句を引いて終りたい。
木枯の果てはありけり海の音・・・・・・・・池西言水
凩や何に世わたる家五軒・・・・・・・・与謝蕪村
木枯や鐘に小石を吹きあてる・・・・・・・・与謝蕪村
凩や広野にどうと吹きおこる・・・・・・・・・与謝蕪村
木がらしや地びたに暮るる辻諷(つじうた)ひ・・・・・・・・小林一茶
木がらしや目刺にのこる海のいろ・・・・・・・・芥川龍之介
海に出て木枯帰るところなし・・・・・・・・山口誓子
木枯や水なき空を吹き尽す・・・・・・・・・河東碧梧桐
こがらしや女は抱く胸をもつ・・・・・・・・加藤楸邨
死は深き睡りと思ふ夜木枯・・・・・・・・相馬遷子
木枯と星とが知つてゐるばかり・・・・・・・・矢田部芙美
凩や馬現れて海の上・・・・・・・・松沢昭
妻へ帰るまで木枯の四面楚歌・・・・・・・・鷹羽狩行
木枯らしに暮れてモンドリアンの木々・・・・・・・・高橋謙次郎
木枯やいつも前かがみのサルトル・・・・・・・・田中裕明
木枯のあとの大いなる訃がひとつ・・・・・・・・堀米秋良
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