
東岸西岸の柳 遅速同じからず
南枝北枝の梅 開落已(すで)に異なり・・・・・・・・・・・・・・・慶滋保胤
作者は慶滋保胤(よししげのやすたね)、平安中期の著名な文人で、その作『池亭記』は鋭く社会の変貌を捉えて鴨長明の『方丈記』に影響を与えた、とされる。
出典は『和漢朗詠集』巻上「早春」から。
保胤は白居易に傾倒し、この詩も白居易の詩句「北の軒 梅晩(ゆふべ)に白く 東の岸 柳先づ青みたり」や「大庾嶺上の梅 南枝落ち北枝開く」を踏まえているが、謡曲「東岸居士」その他に多く引かれ愛唱された。
同じ春とは言え、地形や場所によって季節の到来には遅速がある。
開く花あれば、散る花あり。
造化の妙は、そんな違いにも現れて、感興の源泉となる。

なお、
二(ふた)もとの梅に遅速を愛すかな・・・・・・・・・・・・与謝蕪村
の句は、この保胤の詩句を踏んだ句と言われている。
今しも、柳の新芽が芽吹く頃である。梅も、そろそろ咲き揃う頃である。
以下、柳の新芽を詠んだ句を引いて終わる。
柳の芽雨またしろきものまじへ・・・・・・・・・・久保田万太郎
芽柳に焦都やはらぎそめむとす・・・・・・・・・・阿波野青畝
芽柳や成田にむかふ汽車汚れ・・・・・・・・・・石橋秀野
芽柳の花のごとしや吾子あらず・・・・・・・・・・角川源義
芽柳のおのれを包みはじめたる・・・・・・・・・・野見山朱鳥
風吹いてゐる綿菓子と柳の芽・・・・・・・・・・細川加賀
芽柳を感じ深夜に米量る・・・・・・・・・・平畑静塔
あれも駄目これも駄目な日柳の芽・・・・・・・・・・加藤覚範
芽柳や銀座につかふ木の小匙・・・・・・・・・・伊藤敬子
芽柳の揺るる影浴び似顔絵師・・・・・・・・・・太田嗟
利根万里風の序曲に柳の芽・・・・・・・・・・三枝青雲
芽柳のほか彩もなき遊行かな・・・・・・・・・・今村博子
水色に昏るる湿原柳の芽・・・・・・・・・・神田長春
| ホーム |