
春のために・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大岡信
砂浜にまどろむ春を掘りおこし
おまえはそれで髪を飾る おまえは笑う
波紋のように空に散る笑いの泡立ち
海は静かに草色の陽を温めている
おまえの手をぼくの手に
おまえのつぶてをぼくの空に ああ
今日の空の底を流れる花びらの影
ぼくらの腕に萌え出る新芽
ぼくらの視野の中心に
しぶきをあげて廻転する金の太陽
ぼくら 湖であり樹木であり
芝生の上の木洩れ日であり
木洩れ日のおどるおまえの髪の段丘である
ぼくら
新らしい風の中でドアが開かれ
緑の影とぼくらとを呼ぶ夥しい手
道は柔らかい地の肌の上になまなましく
泉の中でおまえの腕は輝いている
そしてぼくらの睫毛の下には陽を浴びて
静かに成熟しはじめる
海と果実
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この詩は1986年8月刊学習研究社『うたの歳時記』恋のうた・人生のうた、に載るものである。
みづみづしい現代詩の息吹に触れてもらいたい。
今日の記事は短いので ↓ イブ・モンタンの動画を出しておく。「春」を唄うシャンソンである。
私など古い人間には懐かしいが、もう古いかな。
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