
春雷やかの日の銀の耳飾り・・・・・・・・・・・・坪内稔典
季節が冬から春に移ってゆく頃に「春雷」が鳴るものである。 夜明けなどに鳴ることが多い。
この句は「かの日の銀の耳飾り」とだけ詠んで、多くを語らないが、読者にさまざまに想像させて、秀逸である。
「春雷」は別名「虫起し」とも言い、そのことは3/6付けの「啓蟄」のところでも書いた。
私の歌にも
春雷一閃あやとりの糸からみつつ迷路(ラビュリントス)をくぐりゆくらし・・・・・・・・・・・木村草弥
というのがある。
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。
この歌を発表したときも評判は良くなかった。やはり判り難いということである。
この歌は「春雷一閃」「あやとりの糸」「からみつつ」「ラビュリントス」などの言葉が日常生活の情景と、どう関わるのか、というわけである。
この一連は「神経叢」という標題のもので8首の歌から成るが、全体として「暗喩」を利かした歌作りになっている。
ここで、そのメタファーを解き明かすことは、しない。いいように鑑賞してもらえば有難い。
一つだけヒントを差し上げると、掲出した写真の春雷の「いなづま」が「あやとりの糸」に見えないだろうか。
要は「想像力」の問題である──「メタファー」というのは。
以下「春雷」を詠んだ句を引いて終わる。
下町は雨になりけり春の雷・・・・・・・・・・・・正岡子規
比良一帯の大雪となり春の雷・・・・・・・・・・・・大須賀乙字
再びの春雷をきく湖舟かな・・・・・・・・・・・・富安風生
春雷や俄に変る洋の色・・・・・・・・・・・・杉田久女
春雷や刻来り去り遠ざかり・・・・・・・・・・・・星野立子
春雷や三代にして芸は成る・・・・・・・・・・・・中村草田男
春の雷焦土しづかにめざめたり・・・・・・・・・・・・加藤楸邨
あえかなる薔薇撰りをれば春の雷・・・・・・・・・・・・石田波郷
句縁ただ仮りそめならず春の雷・・・・・・・・・・・・石昌子
三山の天心にして春の雷・・・・・・・・・・・・沢木欣一
春雷の闇より椎のたちさわぐ・・・・・・・・・・・・飯田龍太
春雷の七十歳はなまぐさき・・・・・・・・・・・・伊藤白湖
春雷を殺し文句のやうに聴く・・・・・・・・・・・・鈴木栄子
春雷の余喘のわたる野づらかな・・・・・・・・・・・・鈴木貞雄
窯出しの壺がまづ遇ふ春の雷・・・・・・・・・・・・辺見京子
鞭のごと女しなえり春の雷・・・・・・・・・・・・岸本マチ子
鶸飛べり出雲平野の春の雷・・・・・・・・・・・・葛井早智子
幸せも過ぎれば不安春の雷・・・・・・・・・・・・黒田達子
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