
少年の日・・・・・・・・・・・・・・・佐藤春夫
野ゆき山ゆき海辺ゆき
真ひるの丘べ花を藉(し)き
つぶら瞳の君ゆゑに
うれひは青し空よりも
この「少年の日」という詩の全文は、下記の通りである。
1.
野ゆき山ゆき海辺ゆき
真ひるの丘べ花を藉(し)き
つぶら瞳の君ゆゑに
うれひは青し空よりも。
2.
影おほき林をたどり
夢ふかき瞳を恋ひ
なやましき真昼の丘べ
花を藉(し)き、あはれ若き日。
3.
君が瞳はつぶらにて
君が心は知りがたし。
君をはなれて唯ひとり
月夜の海に石を投ぐ。
4.
君は夜な夜な毛糸編む
銀の編み棒に編む糸は
かぐろなる糸あかき糸
そのラムプ敷き誰がものぞ。
佐藤春夫は小説家でもあったが、大正10年刊の第一詩集『殉情詩集』以来、大正、昭和の詩壇に特異な地位を占めた。
多く恋愛詩から成る、この詩集は、詩形においては古格を守りつつ、盛られた詩情の鮮烈さ、憂愁の情緒、鋭敏な神経のおののきによって、多くの人の心を捉えた。
掲出の詩は「少年の日」と題する四行詩四章の初期作品で、「四季」に分けられており、掲出のものは一番「春」である。
表現が古風な型を守っているため、却って少年の恋ごころを、よく歌い得て、愛唱された。
この詩は7、5調のリズムで作られており、日本の伝統的な音韻構造を採っていると言える。
掲出した写真は故郷の新宮市にある「佐藤春夫記念館」のパンフレットである。
佐藤春夫は創作を止めた後は、多くの弟子をとり文筆指導で多額の指導料を得ていた。
今では見られない処世術であったと言える。文壇に絶大な影響力があり、文化勲章の受章にも至っている。
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