
沈丁の香の強ければ雨やらん・・・・・・・・・・・・・松本たかし
ジンチョウゲは寒さに強い木で寒中から花芽をつけている。
花が写真のように咲き開くのは三月になってからだが、極めて強い香りが特徴である。だから屋内に置くのは無理である。
私の方の庭にもジンチョウゲがあったが木の芯のところに芯虫が入りやすく、その株は枯れてしまったので、引き抜き、
土を木酢液で充分に消毒してから、鉢植にしてあったジンチョウゲを跡の土に下ろした。
数年順調に大きくなって花をつけていたが、結局また枯れてしまった。だから今は無い。

写真②は垣根状になった大きな株である。
図鑑によると、花びらのように見えるものは萼片(がくへん)で、ジンチョウゲには花びらはない、という。
ジンチョウゲは中国原産の常緑低木で、高さは1メートルくらい。枝が多く、卵形の厚い葉が密生して、全体として丸く玉のように茂る。
沈香と丁子の香りを合わせ持ったような香気があるという意味で沈丁花の名がある。
わが国へは江戸時代に中国から渡来し、生垣や庭先に植えられることが多い。

私の歌にもジンチョウゲを詠ったものがあったと思って、さんざん探してみたが、見つからないので、俳句を掲出することにする。
この花の咲く頃には冴え返るような「寒の戻り」の寒い日がある。
白い花のジンチョウゲがあると聞いてネット上から探し出したので、
写真④に載せる。

以下、歳時記に載る句を引いて終りたい。
沈丁の香の石階に佇みぬ・・・・・・・・高浜虚子
隣から吾子呼んでをり沈丁花・・・・・・・・臼田亞浪
冴返る二三日あり沈丁花(ぢんちやうげ)・・・・・・・・高野素十
ぬかあめにぬるる丁字の香なりけり・・・・・・・・久保田万太郎
靴脱に女草履や沈丁花・・・・・・・・水原秋桜子
沈丁の四五花はじけてひらきけり・・・・・・・・中村草田男
沈丁に雨は音なし加賀言葉・・・・・・・・細見綾子
沈丁の香にひたりゐて過去は過去・・・・・・・・上村占魚
沈丁に水そそぎをり憂鬱日・・・・・・・・三橋鷹女
沈丁も乱るる花のたぐひかな・・・・・・・・永田耕衣
沈丁花多産を恥じる犬の瞳よ・・・・・・・・永野孫柳
沈丁の花をじろりと見て過ぐる・・・・・・・・波多野爽波
授乳の目とぢて日向の沈丁花・・・・・・・・福田甲子雄
沈丁の恣(ほしいまま)なる透し垣・・・・・・・・石塚友二
沈丁の香のくらがりに呪詛一語・・・・・・・・細川加賀
鎌倉の月まんまるし沈丁花・・・・・・・・高野素十

写真⑤はジンチョウゲの実。
雌雄異株で、実は雌株にしかできない。
日本には雌株は非常に少ないとのことで、実を見かけることは少ない。
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