
↑ 「水馬」あめんぼう
あめんぼと同じ身軽さ職退けり・・・・・・・・・・・・岡崎伸
「あめんぼう」は漢字で書くと「水馬」となる。
私の歌にも、こんな作品がある。
水馬(あめんぼう)がふんばつてゐるふうでもなく水の表面張力を凹ませてゐる・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第四歌集『嬬恋』(角川書店)に載るものである。
「あめんぼう」は小さな、体重の軽い水生昆虫だから、細く長い脚の先で、巧みに水の表面張力を利用して、六本の脚で立って、ひょいひょいと水面を移動する。
私は幼い頃から、内向的な性格で、こんな虫や蟻などの生態を、じっと眺めているのが好きだった。と言って「昆虫少年」になることもなかった。

↑ 「ミズスマシ」
歳時記を見てみると「みずすまし」という名前が、間違って、この「あめんぼう」のこととして呼ばれていたらしい。
「みずすまし」というのは全然別の虫であって、1センチほどの紡錘形の黒い虫である。↑ 上に出した写真の水棲昆虫が、それ。
「まいまい」という名前がある通り、水面をくるくると輪をかいて廻っている。水中に潜るときは、空気の玉を尻につけている。
『和漢三才図会』には <常に旋遊し、周二三尺輪の形をなす。正黒色、蛍に似たり> と書かれている。
「あめんぼう」(水馬)については <長き脚あって、身は水につかず、水上を駆くること馬のごとし。
よりて水馬と名づく> と書かれていて、なるほどと納得する。
「あめんぼう」という命名は、飴のような臭いがするので、この名があるという。
以下、「あめんぼう」についての俳句を少し引くが、その中で「水すまし」とあるのは間違いということになる。
読み替えていただきたい。 念のために本当の「水すまし」の写真を出しておいた。
以下に引く句の一番最後に掲出した西嶋あさ子の句の「水すまし」も間違った使用法であるから、念のため。
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水馬水に跳ねて水鉄の如し・・・・・・・・・・・・村上鬼城
水隈にみづすましはや暮るるべし・・・・・・・・・・・・山口誓子
夕焼の金板の上水馬ゆく・・・・・・・・・・・・山口青邨
水馬交み河骨知らん顔・・・・・・・・・・・・松本たかし
打ちあけしあとの淋しき水馬・・・・・・・・・・・・阿部みどり女
八方に敵あるごとく水すまし・・・・・・・・・・・・北山河
水馬はじきとばして水堅し・・・・・・・・・・・・橋本鶏二
水玉の光の強き水馬・・・・・・・・・・・・八木林之助
水路にも横丁あつて水馬・・・・・・・・・・・・滝春一
あめんぼと雨とあめんぼと雨と・・・・・・・・・・・・藤田湘子
恋に跳ね戦ひに跳ねあめんぼう・・・・・・・・・・・・村松紅花
あめんぼうつるびて水輪ひろがらず・・・・・・・・・・・・長谷川久々子
風来の風風来の水馬・・・・・・・・・・・・・・・・・的野雄
ナルシスの鏡を磨く水馬・・・・・・・・・・・・宮下恵美子
水すまし水くぼませて憩ひけり・・・・・・・・・・西嶋あさ子
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