
紫陽花に置いたる五指の沈みけり・・・・・・・・・・・・・・川崎展宏
「紫陽花」の時期としては6月中旬が最盛期で、今日では少し時期を失しているかも知れない。
何といってもアジサイは梅雨の花である。
あじさいの「あず」は集まる、「さい」は真藍の語からきたもので、古語ではアズサイと呼んだ。
落葉低木で、もともとは日本の山野に自生していたガクアジサイから改良されたものという。


庭園や寺院などの鑑賞植物として梅雨期の花として、おおらかに、みづみづしく咲くものとして目立つ存在である。
わりに花期が長くて、小さくて多い四弁の花を、毬状に群がって咲かす。花弁に見えているのは「萼(がく)」で、花はその中で細かな粒になっている。
白、淡緑、紫そして淡紅色と花の色が変化するので「七変化」と称される。
花の色が変わるのはフラポン系の物質が変化するためと言われている。
また植えられている土が酸性かアルカリ性かによって花の色が左右されるという。
日本の山野に自生していたガクアジサイを西洋に持って行ったのはシーボルトだと言われるが、
これが西洋で品種改良されて、こんにち我々が目にするさまざまの園芸種の西洋アジサイになったという。
今ではヨーロッパでもアジサイはすっかり定着してしまったらしい。
「万葉集」には、左大臣橘卿の
あぢさゐの八重咲くごとく弥つ代にをいませわが背子見つつ偲ばむ
という歌の他に1首が載っている。
私の住む近くでは西国三十三ケ所霊場巡りの札所でもある宇治市の三室戸寺が広い庭園の木の下に何千本ものアジサイを植えて有名である。
俳句にもたくさん詠まれているので、少し引いて終わりたい。
写真④はガクアジサイである。

紫陽花や帷子(かたびら)時の薄浅黄・・・・・・・・松尾芭蕉
紫陽花に雨きらきらと蝿とべり・・・・・・・・飯田蛇笏
ゆあみして来てあぢさゐの前を過ぐ・・・・・・・・山口誓子
紫陽花やはかなしごとも言へば言ふ・・・・・・・・加藤楸邨
あぢさゐの花より懈(たゆ)くみごもりぬ・・・・・・・・篠原鳳作
あぢさゐや軽くすませる昼の蕎麦・・・・・・・・石川桂郎
あぢさゐは初花のうすいろにこそ・・・・・・・・松村蒼石
大仏の供華鎌倉の濃紫陽花・・・・・・・・百合山羽公
紫陽花の真夜の変化はわれ知らず・・・・・・・・鈴木真砂女
紫陽花の醸せる暗さよりの雨・・・・・・・・桂信子
紫陽花や家居の腕に腕時計・・・・・・・・波多野爽波
あぢさゐや逢はばすずしくもの言はむ・・・・・・・・細見綾子
紫陽花を買ふ夕暮の河の色・・・・・・・・有馬朗人
紫陽花や恋知らぬ間のうすみどり・・・・・・・・林翔
紫陽花剪るなほ美(は)しきものあらば剪る・・・・・・・・津田清子
絹の服着なじむ午後を日の四葩(ひら)・・・・・・・・鍵和田釉子
父の日の紫陽花ふかく切られけり・・・・・・・・日下部宵三
考へのまとまりかかり濃紫陽花・・・・・・・・成瀬正俊
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