K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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木村草弥歌集『無冠の馬』を読む・・・・・・・・・・・・武藤ゆかり
mukannouma (2)
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   草弥の詩作品<草の領域>
      poetic, or not poetic,
      that is question. me free !
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      木村草弥歌集『無冠の馬』を読む・・・・・・・・・武藤ゆかり(「短歌人」同人)

白を基調とした、清楚な感じのする装丁である。馬のたてがみがなびき、斜め前方へ向けて疾走している。
この馬は、冒頭近くの一連から走り出してきたもののようである。

   ドーパミンはパーキンソン病に著効なりと病む友言へり 分泌に励めよ

   ドーパミンなだめかねつる我なればパーキンソン病に罹るなからむ

 
 ドーパミンは神経伝達物質で、快感を得たり意欲を感じたりといった機能を担う脳内ホルモンのひとつである。
作者はこの物質の過剰なことを「なだめかねつる」と自嘲気味にユーモラスに表現する。友人への励ましもさらりとしていて深刻さがない。
結句で陰を陽にがらっと変えてしまえるところにも、作者のあふれるバイタリティーを感じる。作者の歌風は、日本の伝統的な情緒表現に寄りかからないところに特徴がある。
読者をも明るくするこの詠風は、歌集中盤に展開される、世界各国に取材した詠草へとつながってゆく。

    七十の齢を越えざりし父のこと思へば十五歳われは超えたり

    七十まで現役たりし我のことご苦労様と誰も言ひくれず


 「越える」と「超える」を使い分けながら、静かな詠嘆を伝えてくる。中央に置かれた「思へば」が前半にも後半にも掛かるように思われる。
この語を起点に、父と共に過ぎ去った時間とひとり歩みゆく歳月の二方向を、暖かい光がどこまでも照らしている。
一般的な退職年齢を超えて長く現役生活を続けることは、どれほど気力体力を必要とするだろう。
愚痴でもなく嘆きでもなく、つぶやくように自然に歌い、重責を担う者の孤独を言外に示している。

   十戦十勝かつ英国首位種牡馬—セントサイモンは《無冠馬》だった

   午年生まれ ましてや無冠のわれながら馬齢を重ね八十五となる


 十戦十勝であるのに無冠とは、競馬に詳しくない筆者には読み解けない部分だが、ウィキペディアにセントサイモンに関する詳しい説明がある。
この連作のタイトルも歌集名もこの二首から採られたと思われ、しっかりと向かい合いたい作品である。
後世のサラブレッドに多大な影響を及ぼした名馬と、作者の姿がどことなく重なって見えるのは、「無冠」「馬齢」といったキーワードゆえだろうか。
歌人、詩人、文筆家として、また事業に、家庭にと全力疾走してきた作者。このような多彩な人物に冠を与える資格があるのは、ただ神仏のみであろう。

 「幽明—弥生の死あとさき—」と題された最終章より、とりわけ心惹かれる歌を記して本稿を終えたい。

   いのちあるものはいとほし冬さればプランターに培うビオラ・フィオリーナ

   生きたきは平均余命にて充分とうつしみを割く術は拒みつ

   いとしきは吾妻なれば病める身を看取りてやらな、それが気がかり

   たやすくは人は死ねざり夥しき下血にまみれゐたりても なほ

   マンスリー・マンション三階、病室より持ち帰り洗ふ妻の下着を

   誕生日三月五日にと空輸されし薔薇シャンペン・ゴールド見分け得ぬ 哀し

   とことはに幽明を分くる現し身と思へば悲し ま寂しく悲し

   助からぬ病と知りてゐたれども死なれてみればわれは孤りよ


                                                          (おわり)
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敬慕する武藤ゆかり氏から、私の意図を的確に汲み取った評を賜った。
特に「無冠の馬」─セントサイモンにまつわる部分は、私の今回の歌集の根幹をなすもので、まさに、其処を読み解いていただき、いつもながら武藤さんの眼力に瞠目するばかり。
有難うございました。 心より感謝申し上げます。


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