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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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藤原光顕歌集『椅子の時間』・・・・・・・・・・・・木村草弥
藤原_NEW

──藤原光顕の歌──(21)

     藤原光顕歌集『椅子の時間』・・・・・・・・・・・・木村草弥
                 ・・・・・・・・・芸術と自由社2015/07/29刊・・・・・・・・・・・

この歌集は藤原さんの第六歌集になる。 因みに「自由律短歌」である。
前歌集『時間以後』の後の536篇の作品が収録されている。
「目次」を見ると、
「垂水区上高丸」 「Sentimental Journey」 「やさしい未来」 「奥海印寺太鼓山」   となっている。
「垂水区上高丸」とは元の神戸のお住まいの住所であり、 「奥海印寺太鼓山」とは現在のお住まいの地番である。
収録された歌は、それぞれの土地で詠まれた、ということであろう。 或いは、その土地に因む歌ということもあろう。
「Sentimental Journey」とは旅行詠であるようだ。

以下、数が多いので私の好きな歌を引いてみよう。

「垂水区上高丸」から

*あと数時間で切り替わる人生と思いながらしつこい苦情に頭を下げている
*残っていたのど飴・楊枝・眼鏡拭きなどを捨てて無臭の抽斗にする
*からっぽの抽斗をたしかめ最後に検印を捨てるこれでおしまい
*ご苦労さまでしたと妻が頭を下げる給料日とは少し違う感じでいう

「定年前後」という項目のはじめである。
後に「かづら橋」「家郷いちにち」という項目が見られる。歌を引くことはしないが、これは藤原さんの「故郷」「田舎」を詠ったものであろうか。

*死に場所ときめていた畳一枚 引っ越しと決まった日からそつ気なくなる
*見慣れた窓に三十年の空が広がる おおむね晴れていたと思う
*どしゃ降りの予報が外れて小雨の引っ越し この程度にはついている
*二十年の時間を吸い集める がらんとした部屋に掃除機をかける

「引っ越します」という項目の歌である。 寂しさが満ちている。

「Sentimental Journey」にはGermany・ Switzerland・ France という副見出しがついている。
あと「オキナワ」「广州・桂林」「台湾」「マレーシア・シンガポール」「ソウルまで」「北京点描」と続く。 少し歌を引く。

*ブローニュの森は秋 思いの中に見尽くしたように枯葉が散る
*国境とは何 隣国の火事の煙にかすむシンガポール
*あれがソウル駅と指し 歴史のさりげなさで日帝支配を言う
*五輪フィーバーの北京郊外 あれが盧溝橋と指し多くは語らぬ

「やさしい未来」から

*ハジメニDNAアリ オワリニDNAアリ ソレガスベテダ
*ドウセゲームデアル 神ハヤッパリサイコロヲ振ッタノダ
*奇蹟ハナイ無限ノ記憶素子スベテ完全ニ整合サレテイル

不気味な一連である。

「奥海印寺太鼓山」から

*京都府長岡京市奥海印寺太鼓山まちがいなくここが終いの住処

*初めての駅の周りを歩いてみる うろついている浅野英治を追うように
*ティオ舞子の喫茶店で海を見ている 二度と来ない梅木さんを待ってみる

この二首の歌には哀惜の念がこもっている。
はじめの歌には「倚子」を主宰していた浅野英治のことが詠われている。
二番目の歌には麗しいタッチのイラストを描いた梅木望輔さんのことが詠われる。今でも「たかまる通信」の表紙に使われる。
私の好きなイラストである。

*眠くなるまで待てば眠れると言い とりあえずハルシオン14日分くれる
*相槌の間 上高丸の家並みが浮かぶ 褪せた二階の畳が浮かぶ
*「坐った犬の後ろ姿ってせつないね」「なんかオレより哀しいみたい」
*チミモウリョウをチョウリョウバッコさせる魑魅魍魎跋扈と辞書に見るまで
*「美しい国」では〈おまえはアホか〉というギャグで暮らす芸人もいて
*太鼓山にも春が来て 風が光る 水が光る 七十二歳が光る
*八月 グリーンスタジアムよかったなァ イチローがいたオリックス

日常茶飯事を詠んだようで、ところどころに厳しい「諧謔」が光っている。

この本の題名になった「椅子の時間」という一連から

*おとろえた陽ざしへ覚める いつからか椅子の時間の一部になって

*何をどう判定するのか設問18あなたは人の役に立っていると思うか
*九月六日ふいにくる秋 阪急電車は駅を出るなり左へ曲がる
*薄い陽差し 瓦礫を重機が混ぜ返し何があったかもうわからない
*「バックします、バックします」あれは車だ わたしの声ではない
*裏おもて活字の賀状でいいのですお元気ならそれでいいのです
*暴力団員でない署名して農協で通帳一冊つくってもらう
*延命処置不要家族葬で可と書いただけで終活はまた頓挫してます
*つかのまの日射しを見せてすぐに降る 曲がりくねって春が来る

藤原さんのことについては拙ブログで「たかまる通信」が届くたびに紹介してきた。
今あらためて一冊になってみると、懐かしい歌々が連なる。
この春、藤原さんは長年苦楽を共にされてきた夫人を亡くされた。
これからもお元気で「老いの哀歓」を歌に詠んでいただきたい。
不十分ながら、紹介を終わりたい。 有難うございました。



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