K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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京訛やさしき村の媼らは「おしまひやす」とゆふべの礼す・・・・・・・・・・・木村草弥
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     京訛やさしき村の媼(おうな)らは
         「おしまひやす」とゆふべの礼(ゐや)す・・・・・・・・・・・木村草弥


この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るもので、自選歌にも採っているのでWebのHPでもご覧いただける。
「媼」(おうな)というのは、男の「翁」に対応する言葉で、「老婆」という意味である。
私の歌の中では、媼とは、私の母も含めた老婆の意味で使っている。
「おしまひやす」とは、夕闇が迫ってきて、道を行き交う時にかける当地の掛け声で、この頃では若い人たちは滅多に使わない言葉だが、
「お仕舞いになさってくださいよ」という、「方言」と言えるが、私は、これを愛でて「京訛やさしき」と表現してみた。
この掛け声は、やはり今の時期──秋か初冬の夕暮にふさわしい、と思う。 
「礼」(ゐや)という見慣れないフリガナが振ってあるが、日本の古語やまとことば、にはこんな呼びかたが存在するのである。
短歌は古くは「和歌」と称したが、「漢語」の固い言葉よりも、「やまとことば」の柔かさを尊びたい。
東北地方の田舎ならば、夕方の挨拶に「お晩です」と言うのを想像してもらえば、よい。

この歌の一連を引いておきたい。抄出である。

    母の世紀・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥

  この世紀はじまる年に生まれ来て戦(いくさ)も三たび経し我が母は

  田舎もんは田舎が良いといふ母は九十年をこの村に棲(す)む

  鼻眼鏡ずり落ちさうにかけゐつつ母はこくりと日向ぼこする

  筒鳥の遠音きこゆる木の下に九十の母はのど飴舐むる

  ちとばかり大事な客と老い母は乾山の鉢に粽(ちまき)を盛りぬ

  仏壇に供ふる花の絶えたりと母は茶花の露けきを挿す

  しぐれつつ十二月七日明け初めて母九十一、われ六十一

  九十を越えてうれしき誕生日祝の鯛を食みをり母は

  口あけて入歯はづして眠りゐる母は世紀末の夢を見てゐむ

  かさかさと葦の音させ粽食む九十の母の機嫌よき顔

  老い母は言葉しづかに煮わらびの淡煮の青を小鉢に盛りぬ

  到来の葛餅を食む老い母の唇(くち)べの皺の機嫌よきこと
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私の母は西暦1900年の生まれであり、93歳まで生きたから、文字通り二十世紀を生きたことになる。
歌集に収録するときに、この一連の歌の項目名に「母の世紀」と付けた所以である。

掲出の写真は熊本県に伝わる「桧垣の媼」の坐像である。蓮台寺に伝わるという。
「媼」という題なのだが、それにふさわしい写真がないのでWeb上から検索して拝借した。
そのゆかりについて少し長くなるが一筆しておく。

「桧垣」とは平安時代の延喜(901年)から寛和(986年)頃までの女流歌人である。
若い頃は京都や大宰府に住み、貴族と親交を結び、その美貌と文才で名声を得ていたが、藤原純友の乱の後、肥後白川のほとり、蓮台寺付近に辿りつく。
ここにささやかな庵を構えて住んだ。
ある日、時の肥後国司が通りかかり、媼に水を求めたところ、思いがけなくも、むかし都で鳴らした桧垣の老い果てた姿であることに気づく。
桧垣は純友の乱(939年)で家も焼け、一切の財産を失い落ちぶれていたのである。国司は着ていた自分の着物を脱いで桧垣にあたえたという。
その際、桧垣が詠んだのが

 年ふればわが黒髪も白川のみづはくむまで老いにけるかも

という歌である。
この国司こそ『後撰集』の選者で「梨壺の五人」の一人として有名な清原元輔──清少納言の父親であり、時の歌壇の大御所でもあった。
以後、桧垣は国司官邸に出入りし、任期が終って元輔が都に帰るとき、惜別の歌として桧垣は

  白川の底の水ひて塵立たむ時にぞ君を思ひ忘れむ

と詠んでいる。「媼」という字からの連想と言えようか。お許しあれ。
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なお、「能楽」に謡われる桧垣について、「熊本雑学辞典」というサイトに詳しいので、ご参考までに見てください。
なお伝説には、いろいろの説があるらしく、ゆかりの寺の名前なんかも異同があるので、ご了承ください。


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