
伊勢からの恋文めいて枇杷の花・・・・・・・・・・・・・・・・坪内稔典
「枇杷」はバラ科の常緑高木で、初冬に枝先に三角形総状の花序の花を咲かせる。花は白く香りがよい。庭木としては極めて少なくなった。
実は初夏に熟する。甘くて香りのよい果実である。
枇杷の木は葉が大きくて長楕円形で、葉の裏に毛がびっしりと生えている。葉の表面の色は暗緑色である。
『滑稽雑談』という本に「枇杷の木、高さ丈余、肥枝長葉、大いさ驢の耳のごとし。背に黄毛あり。陰密婆娑として愛すべし。四時凋れず。盛冬、白花を開き、三四月に至りて実をなす」とある。簡潔にして要を得た記事だ。
冬に咲く珍しい植物のひとつである。寒い時期であり、この花をじっくりと眺める人は多くはない。
こんな句がある。
■十人の一人が気付き枇杷の花・・・・・・・・・・・・・・・高田風人子
この句などは、先に書いたことを、よく観察して句に仕上げている。こんな句はどうか。
■だんだんと無口が好きに枇杷の花・・・・・・・・・・・・・・三並富美
■一語づつ呟いて咲く枇杷の花・・・・・・・・・・・・・・・西美知子
■咲くとなく咲いてゐたりし枇杷の花・・・・・・・・・・・・・・・大橋麻沙子
いずれも「枇杷の花」の、ひっそりと咲く様子を的確に捉えている。

写真②にビワの実を載せる。このブログ2009/06/26にビワの実の記事を書いた。果実として品種改良され、「茂木ビワ」が有名である。
以下、枇杷の花を詠んだ句を引いて終る。
枇杷の花霰はげしく降る中に・・・・・・・・野村喜舟
死ぬやうに思ふ病や枇杷咲けり・・・・・・・・塩谷鵜平
枇杷咲いて長き留守なる館かな・・・・・・・・松本たかし
花枇杷や一日暗き庭の隅・・・・・・・・岡田耿陽
故郷に墓のみ待てり枇杷の花・・・・・・・・福田蓼汀
枇杷の花子を貰はんと思ひつむ・・・・・・・・原田種茅
枇杷の花母に会ひしを妻に秘む・・・・・・・・永野鼎衣
枇杷の花くりやの石に日がさして・・・・・・・・古沢太穂
枇杷の花妻のみに母残りけり・・・・・・・・本宮銑太郎
枇杷の花柩送りしあとを掃く・・・・・・・・・庄田春子
枇杷の花暮れて忘れし文を出す・・・・・・・・塩谷はつ枝
病む窓に日の来ずなりぬ枇杷の花・・・・・・・・大下紫水
花枇杷に暗く灯せり歓喜天・・・・・・・・岸川素粒子
雪嶺より来る風に耐へ枇杷の花・・・・・・・・福田甲子雄
枇杷の花散るや微熱の去るやうに・・・・・・・・東浦六代
訃を告げる先は老人枇杷の花・・・・・・・・古賀まり子
贋作に歳月の艶枇杷の花・・・・・・・・中戸川朝人
蜂のみが知る香放てり枇杷の花・・・・・・・・右城暮石
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