K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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原田マハ『楽園のカンヴァス』・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
原田マハ

──新・読書ノート──再掲載・初出2012/02/16

      原田マハ『楽園のカンヴァス』・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・・・・・新潮社2012/01/20刊・・・・・・・・・・

     ニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。
     ルソーの名作『夢』とほとんど同じ構図、同じタッチ。持ち主の富豪は真贋を正しく判定した者に作品を譲ると告げる。
     好敵手(ライバル)は日本人研究者、早川織絵。リミットは七日間――。
     カンヴァスに塗り籠められた真実に迫る渾身の長編!

新潮社の読書誌「波」 2012年2月号より、著者のインタビュー記事を引いておく。
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     [原田マハ『楽園のカンヴァス』刊行記念特集インタビュー]

          二十五年間ずっと書きたかった小説       原田マハ

――このたび刊行される美術鑑定ミステリー『楽園のカンヴァス』は、なんと構想二十五年とうかがいました。構想のきっかけを教えてください。
 美術と私との関わりの最初は小学校二年生の時でした。この小説の舞台でもある倉敷の大原美術館で、ピカソの〈鳥籠〉を見たんです。衝撃的でした。「なんて下手なんだろう、これならあたしでも描ける!」って(笑)。巨匠の名画が一気に身近な存在になりました。その時から、ピカソとはもう四十年ぐらいのお付き合いがあることになります。
 作品そのものの構想が浮かんだのは大学三年生のころ。年上の友人からルソーの画集を見せてもらって、また思ったんです。「なんて下手なんだ」と。でも小学生のときとは全く違う感情でした。技術的には優れていないように見えるけれど、どうしても心にひっかかる。人間の感情に素手で触れるような、見てはいけないものを無理やり見せられたような、むずむずする感じを受けました。その画集にはピカソの言葉も書かれていました。二十世紀初頭の美術界を「今はすごく新しい時代だ」と語った、と。そこでずっと心の中にあったピカソとルソーが繋がり、彼らの時代をいつか書けるんじゃないか、と予感めいたことを思ったのです。当時はまだ自分が作家になるとは考えてもいませんでした。
――本書では、二人の若き研究者が名画の真贋論争とともに、ある物語を読み解いてピカソとルソーの生涯を追いかけます。
 ルソーの作品世界とミステリアスな人生を自分の手でつまびらかにしたいという欲望がずっとありました。革新的なものが生まれる瞬間に立ち会ってみたかったのです。主人公の二人が少しずつ読み解いていくルソーの謎は、私自身が知りたかったことでもあります。ただ、画家たちが生きた時代のどこを切り取るべきかとても迷いました。何よりもまず、小説として読んで面白くないといけない。二人の間に流れる温かい感情のやりとりを表現するため、キュレーターとしての自分は脇に置いて、一作家として思い切って書きました。
――その一方、有名美術館の裏側や大展覧会のからくりなど現代の美術界の様子が実に生々しく描かれています。
 美術界の描写については徹底的にリアルを追求しました。個人的にはニューヨーク近代美術館に勤務した経験が大きかった。同館はさすがに世界的な美術館だけあって、展覧会の完成度が素晴らしく、一キュレーターとしてはとてもかないません。でもその美の裏側にはドロドロした人間関係や、保守的でエリート主義の塊のような人たち、利権にからむ複雑な力学がうごめいていました。それはそれはショックでしたけれど、もしかしたら本書を書くために私はニューヨークに行ったのかも、と今はポジティブに考えています(笑)。
――主人公の一人、早川織絵は美術館の監視員を務めています。なぜこの職業を選ばれたのでしょうか。
 同じ美術に関わる仕事でも、作品を前にしたときの態度はそれぞれの立場で違います。コレクターはその作品をいかにして手に入れるかを考えるでしょうし、画商はいくらで売れるかを、キュレーターはまず展覧会のことを考えるでしょう。その中で、監視員は作品を守って伝えることをもっとも真摯に考えている職業だと思います。でもひょっとすると、一番幸せなのは、一人の観客として美術館を訪れる人かもしれませんね。
 私にとって美術品は決して研究対象ではなく、行けば何かを語りかけてくれる友達のようなものです。だから美術館は友達の家。旅をしていても、いつも世界中に友達の家があって、それぞれに違う物語を話してくれるのです。この小説を読んだ方が、私の友達の家を訪れて、絵画を、そしてルソーやピカソを友達のように親しく思ってくださるならば、それ以上の歓びはありません。    (はらだ・まは 作家)

原田マハ/ハラダ・マハ

1962年、東京都小平市生まれ。中学、高校時代を岡山市で過ごす。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。マリムラ美術館、伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室にそれぞれ勤める。森ビル在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。その後フリーのキュレーター、カルチャーライターに。2005年「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞受賞、デビュー。同作は映画化され、35万部を超える大ヒットとなる。その他の著作に『一分間だけ』『さいはての彼女』『キネマの神様』『翼をください』『インディペンデンス・デイ』『星がひとつほしいとの祈り』『本日は、お日柄もよく』『風のマジム』『まぐだら屋のマリア』『でーれーガールズ』『永遠をさがしに』など。『楽園のカンヴァス』は著者の本領とも言うべき美術の分野に初めて真っ向から挑んだ長編小説。

目次
第一章 パンドラの箱 二〇〇〇年 倉敷
第二章 夢 一九八三年 ニューヨーク
第三章 秘宝 一九八三年 バーゼル
第四章 安息日 一九八三年 バーゼル/一九〇六年 パリ
第五章 破壊者 一九八三年 バーゼル/一九〇八年 パリ
第六章 予言 一九八三年 バーゼル/一九〇八年 パリ
第七章 訪問―夜会 一九八三年 バーゼル/一九〇八年 パリ
第八章 楽園 一九八三年 バーゼル/一九〇九年 パリ
第九章 天国の鍵 一九八三年 バーゼル/一九一〇年 パリ
第十章 夢をみた 一九八三年 バーゼル
最終章 再会 二〇〇〇年 ニューヨーク
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「波」 2012年2月号より

      [原田マハ『楽園のカンヴァス』刊行記念特集]

       前代未聞の“鑑定対決”エンターテインメント      大森 望

『楽園のカンヴァス』は、素朴派の巨匠、アンリ・ルソーの幻の名画が物語の焦点。「夢をみた」のタイトルで《小説新潮》連載が始まった当初から評判を呼んでいたそうですが、寡聞にして知らず、ゲラで読んで仰天した。原田マハがこんな堂々たるエンターテインメントを書こうとは……。
 絵画をネタにしたミステリーなら、それこそダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』から、一昨年の日本ミス>テリー文学大賞新人賞に輝く望月諒子『大絵画展』まで無数にある。贋作ネタも珍しくない。だがしかし! 本書の趣向は前代未聞。いやはや、こんな絵画ミステリーは初めてだ。
 ……と、興奮のあまり話が先走ったが、もう少し詳しく中身を紹介しよう。物語は二〇〇〇年の倉敷で幕を開ける。四十三歳の早川織絵は、若い頃、パリ在住の美術研究者だったが、日本に帰って、母親の住む岡山で未婚のまま子供を産み、いまは大原美術館の監視員をしながら、母と十六歳になる娘の真絵と平穏無事に暮らしている。そんなある日、思いがけない話が舞い込んだ。大手全国紙の文化事業部が大規模なアンリ・ルソー展を企画し、MoMA(ニューヨーク近代美術館)からルソー最晩年の代表作「夢」を借りようとしたところ、先方のチーフ・キュレーターのティム・ブラウンが、「オリエ・ハヤカワを交渉役にするなら考えよう」と返答したというのである。一介の監視員である織絵が、なぜそんな大役に指名されたのか?
 と、ここまでが第一章。わずか三十数ページのこの章を読むだけで小説世界に深く入り込み、抜けられなくなる。だがもちろん、本番はこのあと。第二章に入ると、物語は一九八三年のニューヨークに飛び、織絵にかわって、若き日のティム・ブラウンが主人公となる。当時の彼は、アシスタント・キュレーター五年目の三十歳。下っ端の雑用係だが、そん
なティムのもとに、ある日、伝説の大物コレクター、バイラーの代理人だという弁護士から、ルソーの知られざる名画
を調査してほしいとの手紙が届く。よく似た名前の上司トム・ブラウンと宛名を書き違えたのだろうが、ティムは千載一遇の好機とばかりに依頼を受け、スイスのバーゼルへ向かう。
 バイラー邸に着いたティムは、もうひとりの鑑定役と引き合わされる。二十六歳の若さでソルボンヌの博士号を取得したルソー研究者、オリエ・ハヤカワだ。そして、やがてふたりの眼前にあらわれた幻の名画とは、「夢」とほぼ同一のモチーフを描いた未発表の大作、「夢をみた」だった。はたしてこれは真作か贋作か。バイラーいわく、今日から七日間かけてこの絵を調べ、判定結果を発表してほしい。その勝者に、「夢をみた」の取り扱い権利を与えよう……。
 おお、まさかの鑑定対決! これだけでもわくわくしてきますが(「開運!なんでも鑑定団」の鑑定中BGMが頭の中で鳴りはじめるあたりが我ながら情けない)、本書の眼目はさらにその先。鑑定の材料として、ふたりは七章から成る物語を一日に一章ずつ読むことを求められる。作中に挿入されるその物語は、一九〇六年のパリに始まり、ルソーの晩年の日々を、まるで見てきたように綴ってゆく。いったいこの物語は何なのか? 「夢をみた」の正体とは? 謎が謎を呼ぶ展開が読者をつかまえて放さない。絵画に関する数々の蘊蓄や美術論も(奥泉光の『シューマンの指』が音楽論と小説をなめらかに融合させていたように)無理なく物語にとりこまれ、小説を読むだけでルソーに(ついでにピカソにも)どんどん詳しくなり、ルソーのことがどんどん好きになる。
 ご承知のとおり、著者は実際にMoMAに勤務し、その後フリーのキュレーターになったという経歴の持ち主。みずからの専門分野を初めて正面から題材に選び、同時にエンターテインメント作家として一大飛躍を果たしたことになる。
「眠れるジプシー女」や「戦争」に魅せられた人はもちろん、ルソーといえばジャン=ジャックでしょ、という人にも(美術の鑑定といえば「なんでも鑑定団」でしょ、という私みたいな人にも)ぜひ読んでほしい、年頭を飾る傑作だ。 (おおもり・のぞみ 書評家)

「立ち読み」も出来るので、アクセスされたい。


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