
──村島典子の歌──(25)
村島典子の歌「青空が翔ぶ」33首・・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・・・・「晶」92号2015/12所載・・・・・・
青空が翔ぶ 村島典子
夜ごと夜ごと他者なるわれは夢に来て狂へる人となりゆくごとし
晴朗な明快な日がくるだらうわが晚年はいまどのあたり
ほんたうの歌とは何か足もとゆ先生のこゑわれを衝きぬく
さみどりの翡翠の念珠なにごともなけれど取り出で眺むる夕べ
杖つきてF氏去りゆく後ろでの君ますならばF氏のやうに
取り返しつかないことの一つにて一枚目残し手紙を出せり
非常ベル鳴らせてしまひパニックののち静かなる居直りがくる
ながいながい夢の途中と思ふまで推理小説こぐらかりきぬ
戦後七十年目「ヒロシマを、わたしを、償(まど)うて」と叫ぶ死者たち
償うてくれと焼けて身体が海へゆく八月六日七つの川を
蝉声は世界をふるはす静寂の未明の大地ひとつかなかな
天の虫かひこは桑の葉にもぐりこの世を食める音かそけくも
一 、二、三、四回ねむりうつくしき繭となりたり宇宙を産まむ
桑の葉を摘みに出できぬ幼日のまさこちやんとわれ草履を履きて
カタツムリ集めて力エル屋に売りにゆく力ーパイドの匂ひ漂ふ家に
犬おまへだんだん人間に似てきたる甘え鳴きして立てぬと呼ばふ
夜々なきて愚図るおまへはもうわれの生みし子である尻尾をもてり
かくのごとき小さきことも死の後は思ひ出だしてわれは泣くらむ
百閒のやうには泣かぬ泣きつかれ車房に揺るる百閒をかし
風土には風土のひかり草木さへあふみの国の気立てをもてり
ひらくよさあひらくよと歌ひつつあさがほは咲くひとの見ぬまに
夢やなあと思ひながらに見るゆめもこれの世の蜜曖昧なれど
ルネ•マグリット展にて七首
あきらかに鳥は交歓するのだらう鳥のかたちに青空が翔ぶ
見ゆるもの見えざるものは木のあはひゆつくり馬上の婦人よぎりぬ
はや足は靴の一部に融けあひて石壁のまへ揃へられたり
見しことはなべて忘れよ振り向かばあしたの樹々は目鼻を生やす
岩の上に祀られたればピレネー城地球をまはる衛星となり
永遠はかくのごとくにおだやかに城を乗せたる巨き岩浮く
青空に白雲の浮きルネ・マグリットなんて明快なんて難解
丹波橋にて乗り換ふるとき背後から服が投げらるわたしの上衣
忘れ物力ーデガンを放りくれしは端正な人ドアが閉まる
なにかかう空(くう)なるものがわたくしを兎に角無事に歩ますらしも
目を閉ぢてわれは聴きをり長月のはじめの雨が夜を渡りくる
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敬慕する村島典子さんの新作である。
比喩と心象表現で書かれているので平易ではないが、味わっていただきたい。
スキャナで取り込んだので「文字化け」がまだあれば指摘してください。すぐに直します。
贈呈に感謝して紹介を終わる。
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