
──藤原光顕の歌──(26)
藤原光顕の歌「あとさきもなく⑤」・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・・・「芸術と自由」誌No.304/2016/04/01掲載・・・・・・・・
あとさきもなく 5
玄関を開ければ笑って出てきそうでペダルを漕ぐ 坂上がりきるまで
迷ってまた玄関に置く 少し汚れた妻のウオーキングシューズ
まだ出てくるアルバム何冊寒い午後をまたさかのぼる三十何年
かあちゃんはたぶん知っていた水仙は庭の見えない隅から咲くと
オモチャみたいな炊飯器で毎日一合炊く毎日一口ずつ余る
鍋を手にぼんやりいる何秒かみそ汁の具が豆腐になるまで
炊飯器の左側に置く あの人が決めた定位置へポットを置く
声に出そうになってのみこむ ひとり用なんとか鍋の白菜が甘い
転がしたままの蕗の薹三つ とりあえず今夜はカレーを温めよう
乏しくなった札を数えた昨日のこと視ていた眼鏡が今日は壊れる
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藤原さんの作品である。
先に⑥を載せたが、本日到着したのは先に発表された⑤である。
発表誌の発売の前後による食い違いであるから、ご了承願いたい。
相変わらず、奥さんを亡くされた哀愁に満ちた一連である。
藤原さん、ご自愛ください。
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