猫と生れ人間と生れ露に歩す・・・・・・・・・・・・・・・・・加藤楸邨
「露」は、夜晴れていて風のないとき、放射冷却によって地面が冷えると、それに接する空気が冷えて、大気中に含まれる水蒸気が水滴になるものである。
秋に多いので秋の季題になっている。
一面に降り、しぐれのように見えるのを「露時雨」という。
「古今集」に
啼き渡る雁の涙や落ちつらむ物思ふ宿の萩の上の露
という歌があるが、「涙の露」「白露」「露けき」などの「思い」にかかわる用例とともに、「消ゆる」「徒(アダ)なる」のような「はかなさ」の一面が強調されてきた。
情感の深さにひびくとともに、「むなしい」ところが詠われる。
露とくとく試みに浮世すすがばや・・・・・・・・松尾芭蕉
しら露やさつ男の胸毛ぬるるほど・・・・・・・・与謝蕪村
露の世は露の世ながらさりながら・・・・・・・・小林一茶
などが古句の名句とされている。
因みに言うと、一茶の句は長女を乳児のうちに死なせたときの句である。
掲出の楸邨の句は現代俳句として、古句とは違った心象の世界を描いて秀逸である。
以下、明治以後の句を引いて終る。
病牀の我に露ちる思ひあり・・・・・・・・正岡子規
露今宵生るるものと死ぬものと・・・・・・・・岡本松浜
疾くゆるく露流れ居る木膚かな・・・・・・・・西山泊雲
露の道高野の僧と共に行く・・・・・・・・池内たけし
露けさの弥撒のをはりはひざまづく・・・・・・・・水原秋桜子
巨杉の露の日筋を十方に・・・・・・・・高野素十
落ちかかる葉先の露の大いさよ・・・・・・・・星野立子
金剛の露ひとつぶや石の上・・・・・・・・川端茅舎
露の花圃天主(デウス)を祈るもの来る・・・・・・・・山口誓子
ショパン弾き了へたるままの露万朶・・・・・・・・中村草田男
露の野やふとかはせみを見失ふ・・・・・・・・五十崎古郷
露燦々胸に手組めり祈るごと・・・・・・・・石田波郷
露踏んで相聞の句をつくらばや・・・・・・・・京極杞陽
露の中つむじ二つを子が戴く・・・・・・・・橋本多佳子
露の夜の一つのことば待たれけり・・・・・・・・柴田白葉女
露の土踏んで脚透くおもひあり・・・・・・・・飯田龍太
幾万の露けき石とわれひとり・・・・・・・・白石蒼羽
白露や死んでゆく日も帯締めて・・・・・・・・三橋鷹女
白露の瞳はかなしみの鈴をふる・・・・・・・・石原八束
露の戸を敲く風あり草木染・・・・・・・・桂信子
白露の世尊寺道をつくりをり・・・・・・・・大峯あきら
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