K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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田中成彦第四歌集『田園曲』パストラーレ・・・・・・・・木村草弥
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──新・読書ノート──

      田中成彦第四歌集『田園曲』パストラーレ・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・・北斗書房2016/09/22刊・・・・・・・

この本は田中成彦氏の第四歌集になるが「海外旅行詠」だけを収録したものである。
2001年春のモロッコの旅から、2001年夏の「中国山西省」、2002年夏の「スペイン銀の道」、2003年夏の「フランス」、2004年夏の「中欧」、2005年夏の「ドイツ」、2006年夏の「西バルカン」、2007年夏の「アルプスⅠ」、2008年夏の「アルプスⅡ」、2010年夏の「アルプスⅢ」、2012年春の「バスク」、2012年秋の「西欧」に至る旅を詠んだ作品573首から成っている。
収録歌数が多いので、1ページ5首を配する構成になっている。
田中氏は音楽に詳しいようで著書には、すべて題名に音楽用語が付けられている。
第一歌集『前奏曲』はプレリュード、第二歌集『喜遊曲』はディヴェルティメント、第三歌集『協奏曲』はコンチェルト、そして今回の『田園曲』はパストラーレ、である。

田中氏の経歴を書いておく。
「吻土短歌会」を主宰しておられ、進学校として名高いヴイアトール学園・洛星高校の元副校長であられた。キリスト者である。
もちろん先生は、この学校の出身で、茶道三千家のひとつ武者小路千家 家元 千宗守宗匠なども此処の出身であるという。
京都歌人協会評議員。日本歌人クラブ代表幹事(京都府)。現代歌人協会会員。読売新聞「京都よみうり文芸」選者。などを務めておられる。

「あとがき」の中で
<訪れた土地や出会った人々の激変を思い知らされることにはもはや耐え得なくなった。
 伝えられる海外情報にその思いを強くする。例えば『喜遊曲』にて詠んだ地域の今はどうか。
 旧ソ連ウクライナは兵器の実験場となり、トルコは幾重もの民族・勢力の抗争が激化、エジプトの〈アラブの春〉は狂暴な砂嵐を呼び、
 シリアは犠牲と廃墟とを際限なく生み、パキスタンは襲撃事件に怯え、ギリシアは難破しそうな老朽船となり果てた。
 本書の作歌対象となった中欧・西欧でも事態は切迫している。いたる所で難民の通行や居住に関する緊張が高まり、パリやブリュッセルの市民を襲った悲劇は言うまでもない。
 かくて今後は海外に出かけることも稀になり、行く先もおそらく限定されるゆえ、これまでを区切りとして一巻に纏めることにした。>
と書かれている。けだし、この本の成り立ちと性格を端的に示したものとして引いておく。

以下、歌のいくつかを引く。

*おほよそは隊商宿もさびれつつ一頭の驢馬こぼれ餌を食む (モロッコ)
*オリーヴ油搾る石臼回しゆく驢馬のしりへに暫くを添ふ 
*露店へと好奇向けたる鼻先を不意にかすめて驢馬の黒耳
*削る者、研ぐ者、焼く者、染むる者、 迷路の街に全て揃ひぬ
*地下水路(カナート)を雪の嶺より引き来たる砂漠の町に夕べ到りぬ
*乾隆帝の石碑は四種の文字刻み満州文字を正面に据う (中国山西省)
*長旅の疲れひもじさ今更に柔き粥など摂れば知りたり
*ヒンドゥー教由来の神か腹厚き鳩摩羅(くまら)天の薄らなる笑み
*耕して天にいたらむ段畑のこれぞ華北よ一つ丘越ゆ
*飾りたる店舗も館もおしなべて黄砂を厚く被る色見す
*日本の信徒と名のればハビエルと呟き司祭は親しみ示す (スペイン)
*ゴシックもガウディも共に景を成す巡礼街道ふところ広し
*通り雨止みたる丘にサンチャゴの三つの尖塔確と見えたり
*最果ての聖地に到り祈ること余りに多し二十一世紀
*いにしへは膝行(ゐざ)りて詣づる巡礼路二百余段を只ふり仰ぐ (フランス)
*二作家にゆかりの居宅相近しサンテグジュペリ遠藤周作
*『中世の秋』を駆け抜け王公の驕りも無念も遠き説話ぞ
*喧噪も掏摸(すり)も絶えざるカレル橋されど一度は渡る旅びと (中欧)
*壮絶にフス派抗い討たれける「わが祖国」終章の砦は近し
*積み肥か麦芽か臭ひの混じり合ふチェコの鄙辺のビール工場
*巡礼をなす少女らの讃美歌にロココの装飾和音震はす
*「山上の説教」の絵にて只一人視線寄するは画家自身かも
*ハイネまた歩みけむ道中世の木組み家遺すゴスラーに入る (ドイツ)
*司祭ルターここに雌伏の長かりき今は尼僧の祈り清らか
*ドイツ史の主役は常にザクセンと「帝王行進」の壁画長大
*会談のありたる日より六十年今ポツダムをひたと見据ゑむ
*「無憂」サン・スーシと名付けし王は宮殿の湿気に脚を病みて悩みぬ
*絶景を独り占めせし湖岸なり白くかがやく旧チトー邸 (西バルカン)
*〈若き娘〉ユングフラウは恥ぢらひ持つや頂に今日も僅かの雲を添はせて (アルプスⅠ)
*山岳戦を簡潔に茂吉詠みにける北伊チロルの森深く行く (アルプスⅡ)
*日本より信徒来たるを喜びて司祭は聖歌にフルート奏づ (アルプスⅢ)
*巡礼はここより峠を越ゆるなり石畳みち宿のひしめく (バスク)
*十字軍ここより発ちて征きたるを人ら誇れりのちの悲惨も (西欧)

多くの歌の中から引くのは難しかった。 典型的な歌を漏らしたかも知れない。 お詫びする。
ご恵贈に感謝して、引用を終わる。 有難うございました。 今後のご健詠を。



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