K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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久我田鶴子第八歌集『菜種梅雨』・・・・・・・・・・木村草弥
久我①_NEW
 ↑ 第八歌集『菜種梅雨』─2016/06/05刊
久我②_NEW
↑ 第五歌集『雨の葛籠』─2002/06/10刊

──新・読書ノート──

     久我田鶴子第八歌集『菜種梅雨』・・・・・・・・・・木村草弥
             ・・・・・砂子屋書房2016/06/05刊・・・・・・・

短歌結社「地中海」の編集長である久我田鶴子さんから、この歌集が恵贈されてきた。
私は縁あって一頃この会に席を置いていたので久我さんとも旧知の仲であるが、個人的に親しいということはなかった。
久我さんを知ったのは「地中海」に入った直後に、才能ある若手として教えてもらって第一歌集『転生前夜』を買い求めてからである。
その頃「地中海」編集長は椎名恒治で、私は最近亡くなった船田敦弘の紹介で同誌上に、香川進の第一歌集『太陽のある風景』論をほぼ一年間にわたって書かせてもらった。
先日「香川進研究Ⅱ」という大部の本が送られてきて読んだばかりで、その読後感を久我さんに送ったところだった。
そのお返しに今回この歌集をいただいたという次第である。
書架を探してみると、二番目に図版を出しておいた第五歌集『雨の葛籠』を恵贈されており、十首の歌を抽出して久我さんに返信している。
この本は2002年に出ており、その頃は私はまだブログをやっていないので、ここで紹介することもなかった。ご参考までに図版のみ出しておく。

久我さんは高校の国語の先生であられた。数年前に早期退職され、今は「地中海」編集長専従として、かつ文法と教科書の指導書の仕事をされているようである。
「あとがき」に、それらのことが触れられている。
この歌集には、2011年3月から2015年までの350首が収録されている。年齢にして55歳から60歳に至る、という。
「あとがき」を少し引いてみよう。

<2011年の年明けに父が死に、暫くぼんやりしていたところに遭遇した東日本大震災。・・・・それまでに体験したことのない地震は、いっしゅん死を覚悟させるほどであった。
 それでも私にはまだ、9・11の同時多発テロの衝撃に比べれば、なんとか乗り越えられるかと思われた。・・・・・
 だが3・11の衝撃は、あとからボディブローのようにきた。・・・・・この歌集は、まったく「あの日」以後の産物である。
 “以後”の私の日常は、週に二日のペースで高速道路を使って父のもとへ通っていた二年間。・・・・・
 毎月、仲間たちと「地中海」を発行し、歌集をまとめたいという人がいればそのお手伝いをした。
 そんな中で、福島、とりわけ郡山との縁が深まったのは、そこにいる「地中海」の会員たちがつぎつぎと歌集出版にむけて動きだしたからである。
 理由のないことではない。短歌は、生きることと繋がっている。・・・・・
 また、菜種梅雨の季節がくる。死んでしまったものも元素にかえり、どこかでなにかに再生されてゆくだろう。・・・・・
 受け容れがたい死に戸惑ったたましいも、どこかで安らいでいてほしい。>

久我さんは千葉市にお住まいで、千葉市は、この震災で液状化現象などで埋立地は大きな被害があり、コスモ石油の貯蔵タンクが炎上するなどニュースになった。
久我さんも当然大きなショックをお受けになったと思われ、それらのことが上記の文章になっている。

歌を見てゆきたい。
ここに書かれている通り彼女の父親の介護に携わっておられたが、それらにまつわる歌が詠まれている。
『雨の葛籠』の中に

  <誕生日になにがほしいと言ひやれば「いのち」とおどけて父は言ひたり>

というのがあり、私は十首抄の中に、この歌を引いている。
今回の歌集にも巻頭近くに「父」を詠った歌が並んでいる。

*こゑにしてことば発するちからさへ息の領域 うしなはれゆく
*誤嚥性肺炎なるが父の息しだいに細めつひに止めし日
*吐きつくすやうに発せし言の葉の父にうなづき問ひ返さざり
*ちちのみの父の手帳を火につつみ送りぬ春の彼岸のそらへ
*降る 何が 降る菜種梅雨 亡きひとの芽吹きどこかではじまつてゐる
*誕生日に何がほしいと訊けるとき「いのち」と言ひしは何歳の父か

一番最後に引いた歌が、先に引いた第五歌集の歌と照合するのである。
また五首目の歌に<降る菜種梅雨 亡きひとの芽吹きどこかではじまつてゐる>と詠まれているように、歌集の題名の「菜種梅雨」は父親への追慕の念へと繋がってゆくのである。

この歌集には「亡き人」を偲ぶ歌が多い。結社の主軸として、また豊かな才能の持ち主として若いときから嘱望されてきた久我さんにとっての交友の広さを窺わせる。
*<ヴィルゴ>にて最後に茂樹のつかひたるグラスの行方まなざしに追ふ
  *ヴイルゴ・・・ここで小中英之とともに飲んだのが、小野茂樹の最後の夜であった。
*なつかしく茂樹を語りみづからを<隠れ羊>と言ひたりかの日
                 小野茂樹がつくったグループ「羊の会」
ここに詠まれるのは藤井常世さんである。その藤井さんは2013年10月30日に亡くなられたので、この歌がある。
*あかねさす『水葬物語』に殉じしか 鬣は銀、水になびける (藤田武)
*この夏の三平峠に出逢ひたる渡辺松男 ああ、衣笠草
 沢瀉は夏の水面の白き花孤独死をなぜ人はあはれむ (雨宮雅子『水の花』)
*水の花おもだか土中に冬を越す会へざり人はやがての春に
*いちにんのために捧ぐるそれはそれ さらにこころは自在にありき (関原英治)
*かん高きこゑに目玉の父親が子の危機すくふ水木のしげる
*をさへやうのなきを放ちてあかはだか村山槐多ある日の香川 (香川進)

このように列記しては趣がないが、歌集の中では連作として詠われていて哀切である。
ここに引かれる雨宮雅子の「孤独死」の歌が発表されたときには、私も慄然としたのを覚えている。私のような老年に達すると、むしろ孤独死に憧れのような感情を抱くから不思議である。

とりとめのない「採りあげ方」で失礼するが、この歌集には意識して「ひらがな」表記がなされているのに気づく。
香川進もひらがなの歌が多かった。もちろん日本語は「漢字カナまじり文」表記で成り立つ言語であるから、一概に「ひらがな」を推奨するつもりはないが、「ひらがな」は優しい。
巧く使うと歌に趣が出る。その意味で久我さんの作歌の仕方に賛成する。
少し歌を引いてみよう。
*いきどほりもの言ふひとのかたはらにちやらんぽらんの息継ぎをする
*とめどなくわけのわからぬにんげんのはつろはつろにまきこまれつつ
*踊り場にたまりてをりぬわたぼこりわたぐもわたがしわたぼうしわたし
*さやうなら 言の葉しろくゆくものをつなぎとめむとするにはあらず
*ざらついて心に触れくるこゑなるをよみがへらせてはあぢはひ尽くす
*ひとが死にあきたる穴に嵌めらるるひとつのピース くちをつぐみな
*きざみこみきたへたる皺すくと立てジョージア・オキーフ晩年の顔
*たうとつの死よりひととせあらがへるたましひの顔とほざかりゆく
*かはいさうなんかぢやないと泣きゐしが気がすんだやうに立ち上がりたり
*ごろすけほう あ、いや、ごろごろわあおおわ 俺が何者かなんてどうでも

アトランダムに引いてみたが、ヒラガナにしたところと、漢字にしたところの必然性の選択が秀逸であり、非の打ちどころが無い。
そして「言葉遊び」に興ずる久我さんが居る。「踊り場」の歌などが、そうである。私も「言葉遊び」が好きである。
久我さんの歌集すべてを読んだわけではないが、以前の歌と比べて、久我さんの「歌づくり」が自在になった気がするのである。

私事で失礼するが、五月、六月に突然、体調不良に襲われ、手脚はむくみ肩、腰、下肢が痛み、全身脱力して起居もままならず、原因が判らず四苦八苦した。
私なりに調べて専門医に駆け込み、原因が判って治療し、おかげで軽快した。「リウマチ性多発筋痛症」という診断である。
これにはステロイドが著効するが副作用があるので体調を見ながら薬を減らしてゆくのがコツという。
一時は字を書くこと、キーボードを操ることも出来なかったことを考えると健康ということの有難さが身に沁みる。ご放念いただきたい。
病み上がりなので根気が続かないので失礼して、私の好きな歌を引いて終りにしたい。

*呂の字とふ突き出すをんなのおちよぼぐち紅おしろいにキスのこと言ふ
*二には二の安らかさありいちばんを風除けにして道草を食ふ
*わたくしをいでざる論の埒のそと羊が雲になりゆくところ
*昼ながらワインに生牡蠣 土曜日といふ気安さが夫にまだある
*晴れたるをよろこぶこゑは春蝉の、よろこぶ花はたてやまりんだう
*おほかたは忘れて暮らす幼年期火傷に負へるわれの聖痕(スティグマ)
*おほかた葉落とせる梢にうつり来て 六、七、八、ぱつとゐなくなる
*どこからか転がりきたる風情なり洋梨机上に追熟のとき
*くれなゐを遊びのごとく編みこめる平らなる籠ブルキナファソの
*あんとんね 背中をさする手のぬくみ上総訛りのふところに抱く
*たをたをとはたたき白く秋蝶は葉裏へまはる 生をいとなむ
*拒否すれば罪に問ふとぞ銅鑼ひびき<一億総活躍>の世に連れださる
*非情なる青やはらかく押しかへすちから恃みて拳をひらく




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