K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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入江敦彦『イケズの構造』・・・・・・・木村草弥
いけず

──新・読書ノート──

     入江敦彦『イケズの構造』・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥 
                  ・・・・・・新潮文庫平成19年初版・平成23/02/10三刷・・・・・・・   

「京都本」だが、著者の入江敦彦とは、こういう人である。
   <1961年京都市西陣、髪結いの長男に生まれ、機の音に囲まれて育つ。
    多摩美術大学染織デザイン科卒業。1991年渡英、ロンドン在住。エッセイスト。
    主な著書として、生粋の京都人ならではの視点と鋭い筆致で京都の深層を描き
    話題を呼んだ『京都人だけが知っている』シリーズをはじめ、『イケズの構造』
    『秘密の京都』など。ほかにも英国の文化と生活に関する著作も多数。>

新潮社のホームページに載る紹介記事を引いておく。
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       イケズの構造

     誘って、拒んで、迷わせる……ほんまにイケズな京のひとびと
     よそさん、イケズに出会う

 京都の暖簾をくぐると、そこにはかならずイケズが待ち受けている。と、よそさんはいいます。
 が、果たしてそれは真実でしょうか。
 
■老舗編
 創業ン百年という笄屋さんへ、英国の女友達にあげるプレゼントを買いに行ったとき、
ちょうどそこのご主人が若い女性客へにっこりと最後通告を言い渡しているのに行き当たったことがあります。
「申し訳ありまへんなあ。うちにはお宅さんに売らせていただけるようなもんは置いてへんみたいですわ。また、なんぞの際に寄っとくれやす。おおきに」
 彼女が店を辞したあと思わず吹き出してしまった私に、彼は困ったような笑顔で話し掛けてきました。
「誰ぞに頼まれはったとかでおいやしたんやけど、さっぱり要領を得えしまへんのですわ。
梳かはるんか結い髪に飾らはるんか、自宅で使わはんのか携帯用か、柘植か塗りか。欲しがったはる人の趣味もようわからん言わはるし。
しまいには三千円くらいで適当に何でもええて明後日向いたはるさかいね。すんまへんけどて申し上げたんです」。
 きっと、くだんの子はイナカに帰ってから櫛の依頼人と一緒に「やっぱ、京都ってちょーイケズ」と憤慨するんでしょうね。
「信じらんないよねー。売ってくれないんだよ!」とか愚痴っているに相違ありません。
でも、どう考えたって私には店に非があるとは思えない。
どころか「その先の百円ショップにプラスチック製のがありまっさかい、それにしとかはったらどないです? ご予算で三十本買えまっせ」
くらい言ってやっても全然オッケーですね(彼女には、いっそそのほうが親切に感じられたかもしれません)。
そんなふうに思うのは私が京都人だからでしょうか。
それとも「お客様は神様」的対応から外れたら、それはもう、シキタリに縛められた特異な世界=イケズに分類されてしまうのでしょうか。
 客によって売り物を売らない。これは京都に来たよそさんが遭遇する確率の比較的高い出来事です。
むろん本当にナイ袖は振れナイだけの場合もありますが。
「たったいま売り切れてしまいましてん。すんませんねえ」「ちょうど品切れしてるんですわ。こんどはいつでけるかわかりまへん」
 とやんわりお断りする。
これは「相応しくない」と判断した客から自分たちの扱う商品を護るための手段であり、
本当に必要としてくれているお得意様のためにそれらを確保する方法論でもあります。
バブルの頃、群がる日本人客(よそさん)に向かって商品を床にばら撒き漁らせたパリのブランド店があったそうです。
それに比べて京老舗のなんと奥床しいことでしょう。
  
■訪問編
 数々のシキタリを体で覚えてゆくなかで、販売拒否の次によそさんたちが出会うのが《誘惑のイケズ》です。
早い話が「ぶぶづけ」のバリエーションですね。
「ぶぶづけ」自体は前述したように幻のイケズですが、これに類する“本意でない接待”はあらゆる場所で奈落の口を開けています。
それらに足を突っ込まないように歩くのは骨の折れる作業。
好意の見極めは恋愛というシチュエーションでなくとも失敗すると怪我します。要は距離感とバランス感覚なんですけどね。
 商家が基本のこの街では、ごく最近まで鍵をかける習慣がありませんでした。夏ともなれば玄関は開けっ放し。
そして、そんな物理的な敷居の低さが手伝ってか、彼ら彼女らは些細なことで実に頻繁に行き来します。もちろんアポなし。
けれどまた、それゆえに京都人は「ぶぶづけ」を出されないよう訪問や辞去のタイミングに細かく気を配るようになります。
もちろんその背景には、子どもの頃からの経験の積み重ねがあります。京都人は相手が幼いからって無礼や不躾を容赦しませんからね。
みんな辛ぁーい“ぶぶづけ”を啜りながら人間関係の機微を学んでゆくのです。

「取材先でコーヒーを勧められて、お願いしたんですけどいつまで待っても出てこなかったんですが、これってイケズですか」と、
インタビューを受けたライターさんから訊ねられて困ったことがあります。
ものを書く仕事をしていても近頃は情況を分析して的確に捉える作業なんてしないんですねえ。
 相手が忙しそうかどうか。相手のステイタス。どのくらいの時間を割いてもらったのか。取材の時間帯。取材中の雰囲気。
コーヒーは出前になるのか、その場で淹れるのか。ご挨拶なのか厚意なのか。自分が好かれているかどうか。相手に関する知識がどれくらいあるのか。
これからの付き合いは存在するのか。両者に利害関係はあるのか。あるなら、その程度はいかばかりか。取材のギャランティは発生しているのか。
誰か仲介者があったのか。アポのときの様子はどうだったのか。どんな文脈で「コーヒー」という言葉が登場したのか。
なにより、どんな言い方だったのか。そういう情報がなければ判断のしようがありません。

A ただ単に「コーヒー飲まはりますか」と言われたのか。
B あるいは「そない急かんでもコーヒーなと一杯あがっておいきやす」か。
C それとも「喉渇きましたなあ。コーヒーでもどないです」だったのか。
D もしくは「コーヒーでよろしか」と訊かれたのか。
 仮に、初対面に近い京都人があなたというよそさんにコーヒーを勧めるとしたら、その表現は大きく分けて以上四つのバリエーションに分かれます。

 もしAならば、ただの挨拶の可能性が高いです。ほぼ無意識ですからコーヒーがやってくることは、まずありません。
「おはようさん。どこ行かはんの」と声をかけた京都人が期待してる返事は「ちょっとそこまで」であって詳しい日程ではありません。
あなたが答えるべきは「へえ、おおきに」。そう口にしておいて頃合を見計らい暇を告げるのが定石です。
もし、これが会話を始める前のオファーなら言葉通りの質問。それでいてコーヒーが運ばれてこなければイワズモガナでしょう。
手際よく切り上げる必要があります。

 Bも挨拶の一種なのですが、これは京都人の悪癖でもありますね。
あなたは絶対に「いや嬉しいわあ。そやけど、そんなん結構です」と遠慮せねばならないのですが、いっぺんくらいでは許してもらえません。
「なんでですのん。よろしやん」「コーヒーお嫌いやったら紅茶にしまひょか」「もう淹れかけてまっさかい。な」と執拗です。
しかしどんなに執拗でも断り続けねばならぬ蟻地獄のような、これは風習なのです。
京都人ですらいい加減鬱陶しいと思っています。が、やめられない。
「これはぶぶづけで言うてるのんとちゃいまっせ」とまで迫られても固辞が原則。当然ながらコーヒーの出る幕はナシ。

 怖いのがC。なぜならこの台詞は京都人にとって精一杯のストレートな「撤収!」の合図。
この台詞には脊髄反射で鞄を抱え直さねばなりません。
喉渇きましたなあと“疲れ”を強調したうえで訊ねるのは、辞退してくれというメッセージだからです。しかもコーヒーでもといっている。
このでもは「なんでもええし」と突き放すでも。あとには無言の「ちゃっちゃと済ませとくれやす」がついています。
「こんど時間のあるときに、また呼ばれまっさ」と席をたちましょう。

 唯一誘いに乗ってもよさそうなのがDです。
(後略……この先は本書でおたしかめください)
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「京都人」と付き合うのは難しいですぞ!!!
では、続編をお楽しみに。

いよいよ本年も押し詰まってきた。 本年も後一日を残すのみである。
佳い年越しをなされるようお祈りして本年の「稿」を終わる。






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