K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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風 吹いてゐる/木 立ってゐる/ああ こんなよる 立ってゐるのね 木/ああ こんなよる・・・・吉原幸子
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       風 吹いてゐる/木 立ってゐる/ああ こんなよる 立ってゐるのね 木/ああ こんなよる・・・・吉原幸子                

吉原幸子が死んで十五年になる。
2012年11月に彼女の『全詩』集が新たな資料も加えて新装刊行された。
先ずWikipediaに載る彼女の概略を引いておく。
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吉原 幸子(よしはら さちこ、1932年6月28日 ~ 2002年11月28日)は、日本の詩人。

東京・四谷生まれ。四人兄妹の末っ子。三陽商会の創業者、吉原信之は実兄。兄姉の影響で幼い頃から萩原朔太郎や北原白秋の詩に親しむ。高校時代には演劇・映画に熱中(演劇部の同級生に女優の荻昱子、朗読家の幸田弘子、二年後輩に宝田明がいた)、また国語教師の詩人那珂太郎の奨めで校内文芸誌に詩作を発表した。一浪の後、1952年(昭和27年)、東京大学文科二類に入学。在学中は演劇研究会に在籍し、サルトルやブレヒトなどの現代劇に出演。1956年(昭和31年)、東大仏文科卒業。初期の劇団四季に入団、「江間幸子(えま さちこ)」の芸名で第6回公演のアヌイ作『愛の條件 オルフェとユリディス』(音楽・武満徹)にて主役を務めるも同年秋に退団。1958年(昭和33年)、黒澤明の助監督であった松江陽一と結婚、一児をもうけるが1962年に離婚。同年、那珂太郎を通じて草野心平を紹介され、歴程同人となる。

1964年(昭和39年)5月、第一詩集『幼年連祷』を歴程社から350部自費出版。思潮社社主の目にとまり、第二詩集『夏の墓』を思潮社から出版。またこの年、吉行理恵、工藤直子、新藤涼子、山本道子、村松英子、山口洋子、渋沢道子ら同世代の女性詩人と8人でぐるーぷ・ゔぇが(VEGA,ベガ)を起ち上げ、1968年の休刊まで詩誌を刊行。1965年(昭和40年)、『幼年連祷』で第4回室生犀星詩人賞を受賞。1974年(昭和49年)、『オンディーヌ』『昼顔』で第4回高見順賞受賞。この頃より諏訪優、白石かずこ、吉増剛造らと共に、詩の朗読とジャズのセッション、舞踏家山田奈々子との舞踏公演など、詩と他分野のコラボレーションを手がけるようになる。1983年(昭和58年)7月、新川和江と共に季刊詩誌『現代詩ラ・メール』(思潮社, 書肆水族館)を創刊。1993年の通巻40号を以て終刊するまで広く女性詩人や表現者の活動を支援した。輩出したラ・メール新人賞の受賞者には小池昌代、岬多可子、高塚かず子らがいる。

1990年頃から手の震えなど身体の変調を来し、1994年にパーキンソン症候群と診断される。1995年(平成7年)、新川和江によってまとめられた最後の詩集『発光』を出版。同年第3回萩原朔太郎賞を受賞。2001年(平成13年)に自宅で転倒し入院。翌2002年11月28日、肺炎で死去。

生前に「私にはふたつ秘密があるの」と語っていた秘密のひとつはレズビアンであったというもので、作品の中でそのことを抽象的に表しているが、本人の口から公式には発表されていない。

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詩集
幼年連祷 歴程社 1964(自費出版)
幼年連祷 思潮社 1964
夏の墓 思潮社 1964
オンディーヌ 思潮社 1972
昼顔 サンリオ出版 1973
吉原幸子詩集 思潮社 1973 (現代詩文庫)
魚たち・犬たち・少女たち サンリオ出版 1975
夢 あるひは… 青土社 1976
夜間飛行 思潮社 1978
新選吉原幸子詩集 思潮社 1978(新選現代詩文庫)
吉原幸子全詩 I, II 思潮社 1981
花のもとにて春 思潮社 1983
吉原幸子 中央公論社 1983(現代の詩人 12)
恋唄 沖積舎, 1983(現代女流自選詩集叢書)
ブラックバードを見た日 思潮社 1986
樹たち・猫たち・こどもたち 思潮社 1986
新編 花のもとにて春 思潮社 1988
発光 思潮社 1995
続・吉原幸子詩集 思潮社 2003(現代詩文庫), 新選吉原幸子詩集の改訂版
続続・吉原幸子詩集 思潮社 2003(現代詩文庫)
吉原幸子全詩 I, II, III 思潮社 2012
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風 吹いてゐる
 
木 立ってゐる

ああ こんなよる 立ってゐるのね 木

風 吹いてゐる 木 立ってゐる 音がする

よふけの ひとりの 浴室の

せっけんの泡 かにみたいに吐きだす

にがいあそび  ぬるいお湯

なめくぢ 匍ってゐる

浴室の ぬれたタイルを

ああ こんなよる 匍ってゐるのね なめくぢ

おまへに塩をかけてやる

するとおまへは ゐなくなるくせに そこにゐる

  おそろしさとは

  ゐることかしら

  ゐないことかしら

また 春がきて また 風が吹いてゐるのに

わたしはなめくぢの塩づけ

わたしはゐない

どこにも ゐない

わたしはきっと せっけんの泡に埋もれて

流れてしまったの

ああ こんなよる

                           (吉原幸子 「無題」より)
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よく引かれる詩である。
冒頭の三行ほどは、部分的に引くと「短詩」としても自立する。
これは彼女が学んできたフランス詩のジュール・ルナールの詩などを想起させる。
ルナールの詩は、こんなものである。

◇ ジュール・ルナール(岸田国士訳)



長すぎる。





二つ折りの恋文が、花の番地を捜している。


詩は削ぎ落して短いほど、鋭くなる。私も少年のころ、これらの詩に触れて、心ふるえたものである。
彼女は詩作品は、全部「旧かな」で書いたと言われているが、きわめて我流である。
旧カナでは、促音、拗音などでも字を小さくしないのが伝統的だが、彼女の場合には新カナ表記のように、小さく書く。 例 →「立ってゐる」。
だから我流という所以である。
文学作品だから、これが間違いだとは言い切れないが、これが短歌、俳句という伝統的な領域ならば、結社の主宰者などによって直されるだろう。
また彼女の詩集の題名にもなっているが『夢 あるひは』というのがあるが、この「あるひは」というのは勘違いによる誤用である。
これは「或いは」英語でいうと「or」の意味だと思われるからで、文語だから「あるひは」だろうという間違った類推によるもので、あちこちで見られる。
「あるいは」は──「あり」の連体形「ある」+間投助詞「い」+係助詞「は」──から成るもので、「あるひは」とするのは「い」の意味が不明になったための誤用、
と古語辞典に明記してある。 これらは日本語表記の約束事であるから、一定のルールの下で使ってもらわないと困る。
私が、彼女の誤用と断定するのは他のところで「或る日」という用法があって、彼女の使い分けが明確だからである。念のために言っておく。
他の詩も二、三引いてみる。
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   -小ちゃくなりたいよう!

   -小ちゃくなりたいよう!

 

 ひどく光る太陽を 或る日みた

 煙突の立ちならぶ風景を 或る日みた

 失ったものは 何だったらう

 失ったかはりに 何があったらう

 せめてもうひとつの涙をふくとき

 よみがへる それらはあるだらうか

 もっとにがい もっと重たい もっと濁った涙をふくとき

 

  わたしの日々は鳴ってゐた

   -大きくなりたいよう!

   -大きくなりたいよう!

 

  いま それは鳴ってゐる

   -小ちゃくなりたいよう!

 

 空いろのビー玉ひとつ なくなってかなしかった

 あのころの涙 もうなけなくなってしまった

 もう 泣けなくなってしまった

 そのことがかなしくて いまは泣いてる   (吉原幸子 「喪失」より)

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 雲が沈む

 そばにゐてほしい

 

 鳥が燃える

 そばにゐてほしい

 

 海が逃げる

 そばにゐてほしい

 

 もうぢき

 何もかもがひとつになる

 

  指がなぞる

  匂はない時間の中で

  死がふるへる

 

 蟻が眠る

 そばにゐてほしい

 

 風がつまづく

 そばにゐてほしい

 

 もうぢき

 夢が終る

 

 何もかもが

 黙る                    (吉原幸子 「日没」)


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 大きくなって

 小さかったことのいみを知ったとき

 わたしは”えうねん”を

 ふたたび もった

 こんどこそ ほんたうに

 はじめて もった

 誰でも いちど 小さいのだった

 わたしも いちど 小さいのだった

 電車の窓から きょろきょろ見たのだ

 けしきは 新しかったのだ いちど

 

 それがどんなに まばゆいことだったか

 大きくなったからこそ わたしにわかる

 

 だいじがることさへ 要らなかった

 子供であるのは ぜいたくな 哀しさなのに

 そのなかにゐて 知らなかった

 雪をにぎって とけないものと思ひこんでゐた

 いちどのかなしさを

 いま こんなにも だいじにおもふとき

 わたしは”えうねん”を はじめて生きる

 

 もういちど 電車の窓わくにしがみついて

 青いけしきのみづみづしさに 胸いっぱいになって

 わたしは ほんたうの

 少しかなしい 子供になれた  (吉原幸子 「喪失ではなく」)

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 純粋とはこの世でひとつの病気です

 

 ゆるさないのがあなたの純粋

 もっとやさしくなって

 ゆるさうとさへしたのが

 あなたの堕落

 あなたの愛  (吉原幸子 「オンディーヌ」より)

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 あのひとは 生きてゐました

 あのひとは そこにゐました

 ついきのふ ついきのふまで

 そこにゐて 笑ってゐました

 

 あのひとは 生きてゐました

 さばのみそ煮 かぼちゃの煮つけ

 おいしいね おいしいねと言って

 そこにゐて 食べてゐました

 

 あたしのゑくぼを 見るたび

 かはいいね かはいいねと言って

 あったかいてのひら さしだし

 ぎゅっとにぎって ゐました

 

 あのひとの 見た夕焼け

 あのひとの きいた海鳴り

 あのひとの 恋の思ひ出

 あのひとは 生きてゐました

 あのひとは 生きてゐました      (吉原幸子 「あのひと」より)
 
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もう二、三、彼女の詩の朗読の動画を出しておく。 ただし詩の文句はないが了承されたし。




いい朗読である。 




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