K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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佐伯圭子詩集『空ものがたり』・・・・・・木村草弥
佐伯_NEW

──新・読書ノート──

       佐伯圭子詩集『空ものがたり』・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
            ・・・・・編集工房ノア2017/03/01刊・・・・・・

佐伯圭子さんは、香山雅代さんが主宰する詩誌「Messier」の同人であるが、私は名前は知ってはいるが未知の人であった。
ご本人の経歴なども一切判らない。香山さんから恵贈されてくる「Messier」誌上で作品を拝見するのみであった。
昨秋に「Messier」48号をいただいたときに初めて拙ブログで採りあげたのを香山さんか、同人のどなたかが見てくださったのであろうか。
それが今回の佐伯さんの詩集の贈呈になったものと思われる。有難く拝受して、ここに鑑賞して紹介する次第である。
この本は「あとがき」も何もないものだが、既刊の本の名前が出ているので、ご紹介する。

佐伯圭子
日本現代詩人会会員
兵庫県現代詩協会会員
ひょうご日本歌曲の会会員
兵庫県芸術文化団体「半どんの会」文化賞受賞
詩集『今、わたしの頭上には』1989年 蜘蛛出版
詩集『風祭』1999年 編集工房ノア
詩集『繭玉の中で息をつめて』2013年 思潮社
詩誌「Messier」同人

この詩集には28篇の詩が収録されている。 二、三引いてみよう。

        塔の上       佐伯圭子

  あの日 塔のてっぺんに昇った
  足もとは濃い霧がかかって懐かしい街が霞んで見えた
   
  もう共に居て温かいものを口に運ぶことは無いが
  夕空に煌めき始めた星を一つ二つと数えてみることは出来る

  目の前に塔の高みが見えたから
  昇って行こうとする意思が働いた

  空に向かって昇っていくことは
  空の底へ落ちていくこと

  もう暗い螺旋階段を昇ることも無い
  立ちつくす塔の上まで来たのだから

  ちりぢりになることは 軽くなること
  宇宙の粒子になること

  風だろうか わたしをここへ運び
  塔の上に押し上げたのは

  押し上げられながら 汗して歩いた道のさまざまの
  匂いが立ち昇って来るのを知る 足もとまで

  街の騒めきの隙間 少女らの声が
  まだ整わないままふくらんでいる

  激しく揺れた街まちが 失ったものを抱えたまま
  光りながら放射状に 拡がっていく

この詩は巻頭に載るもので、先に書いた「Messier」48号にも載っていたものである。
巻頭に置かれたということは作者にとって愛着のある一篇なのであろう。
もう二十数年前になるが阪神地方を襲った震災の記憶に連なるものであろう。
「塔」とは、どこでもいいが、例えば、神戸ポートタワーと仮定してみても、いい。
  <激しく揺れた街まちが 失ったものを抱えたまま
    光りながら放射状に 拡がっていく >
という終連の配置が秀逸である。

一つ置いた後の詩に「空中に置いた片足」という題の作品があるが、これも巻頭詩につづくものであるし、「アナーキーなことばが」という詩も同様である。
次に、この本の題名になっいる詩を引く。

       空ものがたり       佐伯圭子

  いつもの夜の散歩道
  いつもの歩道に
  いつもの空
  なのに
  今日のこの空は
  しっかり頭上を覆っていて
  わたしの命の被布のよう
  いつもの独りの散歩道
  十三夜の月わ飾って
  豆名月ね
  栗名月とも言うのですね

  満月じやなくてもいいさ
  と 空の語っていて
  今日はわたしたげの空と言ってもいい?
  訊くと
  今夜はあんただけの空さ
  と おおらかな返事が返ってきた
  今 ここに在るのは
  空とわたしはだけ

  何時ものわたしの散歩道
  もう現世(このよ)ではないような
  この一瞬の 不確かな
  宇宙の風のその下で
  今年はじめての秋虫の音に送られて
  バスが一台通っていった
  下車したひとが散らばって
  それぞれどこかへ帰っていく
  
  今日の夕べの空ものがたり
  いつもの独りの
  散歩道

佐伯さんは、いつも夜に散歩されるらしい。
私は早朝に朝日を浴びながら歩く主義である。体内時計のリズムは朝日と共に目覚めるので、それに従いたい、という考えに基づく。 人それぞれで、いい。 閑話休題。

先に著者の経歴を紹介した中に「ひょうご日本歌曲の会会員」というのがあるが、香山雅代さんもやっておられる。詩に音楽専門の方が曲をつけて歌曲にする、というものである。
何と奥ゆかしい趣味であろうか。 そんなことから「歌曲のために」と付記されている詩を引いておく。

        黒い手袋        佐伯圭子

  冷たい空の下
  ふんわり包まれ 触れ合っていた
  なのに どこかで
  失くしてしまった片方の手袋

  まだ新しい 心地よい手触り
  お気に入りの黒い手袋
  今頃どこかの寒い道
  暗くなった空の下で
  相棒求めて
  ひっそりと

  ああ 雪が降ってきた
  心はどこまでも追いかけるけれど
  あのぬくもりは もう戻らない
  遠のいていく
  黒い手袋の記憶
  微かなその手触り              (歌曲のために)


この詩集全体の題が「空」ものがたり、とあるように、収録される詩が、みんな「空」と関係があるようである。
だから「空ものがたり」と題された佐伯さんの意図を汲み取ることができるのである。
散歩しながら「空」を眺めておられる佐伯さんの姿を思い浮かべていた。

引く詩が少なくて申し訳ないが、引用は、このくらいにしたい。
佐伯さんの詩は、いわゆる「現代詩」のような難解なところはないので読みやすい。 皆さんも、せいぜい鑑賞されたい。
ご恵贈に感謝して、ここに紹介した次第である。 これからも益々のご健詠をお祈りして、筆を置く。 有難うございました。   (完)
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この本の発行元の「編集工房ノア」というと、社主の涸沢純平とは私も旧知の仲であり、また先日亡くなった私の兄・木村重信の編集により『木村庄助日誌』─太宰治『パンドラの匣』の底本を先年刊行したのでアクセされたい。





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