

チューリップはらりと散りし一片に
ゴッホの削ぎし耳を想ひつ・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌はの私第六歌集『無冠の馬』(KADOKAWA 2015/04/25刊)に載るものである。
原文は角川書店「短歌」誌平成24年6月号に発表したものが初出となっている。
雑誌に発表したものは12首だが、歌集に載せる際に2首を習作帖から抜いて付け加えている。
その部分を、ここに引いておく。 ↓
ゴッホの耳
白鳥の帰る頃かもこぶし咲き白き刹那を野づらに咲(わら)ふ
一斉に翔びたつ白さにこぶし咲き岬より青い夜が来てゐる
三椏(みつまた)の花はつかなる黄に会ふは紙漉きの村に春くればゆゑ
沈丁の香の強ければ雨ならむ過去は過去なり今を生きなむ
誰に逢はむ思ひにあらず近寄ればミモザの花の黄が初々し
生憎の雨といふまじ山吹の花の散り敷く狭庭また佳し
白もくれん手燭のごとく延べし枝(え)の空に鼓動のあるがに揺るる
松の芯が匂ふおよそ花らしくない匂ひ──さうだ樹脂(やに)の匂ひだ
ひと冬の眠りから覚めたか剪定した葡萄の樹液したたり止まぬ
天上天下唯我独尊お釈迦様に甘茶をかける花祭 ひとすぢに生きたい
チューリップはらりと散りし一片にゴッホの削ぎし耳を想ひつ
<チューリップの花には侏儒が棲む> といふ人あり花にうかぶ宙(そら)あり
ブルーベリージャムを塗りゆく朝の卓ワン・バイ・ワンとエンヤの楽響(な)る
千年(ミレニアム)きざみに数ふる西洋か 日本は百年に戦さ五度(いつつたび)
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