
今度こそ筒鳥を聞きとめし貌・・・・・・・・・・・・・・・飯島晴子
「ツツドリ」は、人間の住むような里山には近づかず、林間に居て、鳴き声だけが遠くから聞こえてくる。
この句は、そういう筒鳥の生態を、よく捉えている。
私の歌にも、こんなものがある。
筒鳥の遠音きこゆる木の下に九十の母はのど飴舐むる・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るものである。
自選にも採っているのでWebのHPでも、ご覧いただける。
筒鳥は郭公やほととぎすと同じ仲間で姿、形が似ている。これらの鳥は鳴声は田舎なら、よく聞くことがあるが、姿を見ることはめったにない。
この種類の鳥は子育ての際に、独特の「托卵」という習性があることが共通している。
私の第二歌集『嘉木』(角川書店)にも
み熊野の出で湯に宿るあかときにぽぽろぽぽろと筒鳥の声
という歌を載せている。
掲出の歌のことだが、私の母は93歳で亡くなったが、この歌は90歳の頃のことを詠んでいる。母には曾孫も出来ていたから文字通り悠々自適の晩年だった。
初夏のむせかえるような陽気の日には大きな木の蔭でのんびりと過ごしていた。
「のど飴」を舐める母、というところに私の歌作りの工夫を込めたつもりである。
以下、歳時記に載る句を少し引いて終わりたい。
つつ鳥や木曽の裏山木曽に似て・・・・・・・・加舎白雄
筒鳥を幽かにすなる木のふかさ・・・・・・・水原秋桜子
筒鳥なく泣かんばかりの裾野の火・・・・・・・・加藤楸邨
筒鳥や楢の下草片敷けば・・・・・・・・石田波郷
筒鳥鳴けり腕を撫でつつ歩むとき・・・・・・・・大野林火
旅にして聴く筒鳥も辰雄の忌・・・・・・・安住敦
筒鳥やひとの名彫られ一樹立つ・・・・・・・・中島斌雄
筒鳥や涙あふれて失語症・・・・・・・・相馬遷子
筒鳥や分れて道は火山灰ふかく・・・・・・・・皆吉爽雨
筒鳥や思はぬ尾根に牛群れて・・・・・・・・堀口星眠
筒鳥や山に居て身を山に向け・・・・・・・・村越化石
筒鳥の遠音近づくことのなし・・・・・・・・森田峠
筒鳥の風の遠音となりにけり・・・・・・・・三村純也
筒鳥やこんにやく村はすぐ陰る・・・・・・・・茂木連葉子
筒鳥や豆が双葉となりし朝・・・・・・・・矢上万理江
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