

蛸飯とコロッケで済ます昼ごはん
乾電池が梅雨の湿気を帯びる・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の最新刊の第六歌集『無冠の馬』(KADOKAWA刊)に載せたものである。
梅雨入りした今の時期の歌として出しておく。
この一連は「湿気」という項目名で載せたもので、この歌の前に、こんな歌がある。
軽薄な明るさをいつか蔑んだ張りついた汗が乾かない午後
些細な嘘が限りなく増殖する午後ぶあつい湿気にどつぷり巻かれ・・・・・・・木村草弥
今となっては、いつの制作かは、はっきりしないが、さぞ湿気が多い憂鬱な梅雨どきだったのだろう。
「蛸飯」は、自分で作ったものではなく、誰かの瀬戸内の旅のみやげにもらったものだろう。
瀬戸内では明石のタコが有名で、それを干して作った蛸飯が美味で、よく売られている。
章魚食つて路通はその忌知れずなり・・・・・・・・安住敦
という句が歳時記に載っている。
今回、この歌集を進呈した人の引用歌に、これらの作品が引かれていることがあった。
<軽薄な明るさをいつか蔑んだ>という個所を指摘する人もあったし、<些細な嘘が限りなく増殖する>というところを批評してもらったのもあった。
歌集を出して、こういう風に、よく読みこんで手紙をもらう、のが一番うれしいし、参考になる。
それらについては批評欄に引いておいた。
今度の歌集では、考えるところがあって「あとがき」を書かなかった。
歌集は通常「あとがき」が付いていることが多いが、詩集などでは「あさがき」が無い場合がある。
私は、いつも「あとがき」で喋り過ぎる、きらいがあるので、今回は敢えて、書かなかった。
来信には、そのことに触れて、訝る人もあったが、私が意図的にしたことである。
以下、「梅雨」または「梅雨湿り」に因む句を引いて終わりたい。
大梅雨の茫茫と沼らしきもの・・・・・・・・高野素十
家一つ沈むばかりや梅雨の沼・・・・・・・・田村木国
梅雨ふかし戦没の子や恋もせで・・・・・・・・及川貞
梅雨の崖富者は高きに住めりけり・・・・・・・・西島麦南
ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき・・・・・・・・桂信子
梅雨霧を見てゐていつか包まるる・・・・・・・稲畑汀子
梅雨の星齢といふも茫々と・・・・・・・・広瀬直人
かく降りて男梅雨とはいさぎよし・・・・・・・・沢村芳翆
梅雨の底打ちのめされてより力・・・・・・・・毛塚静枝
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