
月見草ほのかなる黄に揺れをれば
けふの情(こころ)のよすがとやせむ・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載せたものだが、「月見草」というのは俗称で、月見草というのは別の花である。正しくは「待宵草」という。南米チリの原産で、わが国には1851年に渡来したという。繁殖力旺盛で、今では海辺や河原、鉄道沿線、河川の堤防などに広く分布する。
太宰治が
<富士には月見草が、よく似合う>
と言ったのも、この待宵草のことである。
いずれにしても、黄色の、よく目立つ花で、私がいつも散歩する木津川の堤防にもたくさん咲いている。何となく女の人と待ち合わせるような雰囲気を持つ花で、ロマンチックな感じがするのである。
以下に歳時記から句を引くが、みな「待宵草」を詠んだものだという。
乳色の空気の中の月見草・・・・・・・・高浜虚子
月あらぬ空の澄みやう月見草・・・・・・・・臼田亞浪
月見草蛾の口づけて開くなり・・・・・・・・松本たかし
項(うなじ)一つ目よりもかなし月見草・・・・・・・・中村草田男
月見草ランプのごとし夜明け前・・・・・・・・川端茅舎
月見草夕月より濃くひらく・・・・・・・・安住敦
開くより大蛾の来たる月見草・・・・・・・・高橋淡路女
月見草はらりと地球うらがへる・・・・・・・・三橋鷹女
月見草咲き満ち潮騒高くなりぬ・・・・・・・・道部臥牛
月見草河童のにほひして咲けり・・・・・・・・湯浅乙瓶
月見草夜気ともなひて少女佇つ・・・・・・・・松本青石
月見草歩み入るべく波やさし・・・・・・・・渡辺千枝子
月見草怒涛憂しとも親しとも・・・・・・・・広崎喜子
月見草ぽあんと開き何か失す・・・・・・・・文挟夫佐恵
月見草馬も沖見ておとなしく・・・・・・・・橋本風車
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