
↑ 小林一茶像
詩「邂逅」<通し給え蚊蝿の如き僧一人>1792年一茶三十歳・・・・・・・・・宮沢肇
この詩は「詩と思想」2017年11月号に載るものである。
見事なメルヘンの一篇となっているので、ご紹介しよう。
「邂逅」 宮沢肇
<通し給え蚊蝿の如き僧一人>
1792年一茶三十歳
関西から九州・四国を巡る西国への旅立ちの
通行手形の一句であった
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2000年のとある日の早朝
ウィーンのミッテを出発した国境越えのバスは
検問のため国境の町Bhonhofで停まった
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ひとりの僧服の男が
検問所に隣接した木戸を開けて
出てきた
なんと 日本を出るとき眺めた
ひとりの肖像画の田舎業俳ではないか
・・・・・・・・・・
ぼくは車窓から思わず声をあげた
あの一句はこんな処にまで神通力を発揮していたのだ
・・・・・・・・・
車窓のぼくと眼を合わせたかれはいきなり
何か弾けるような言葉を発した
「ヤポンスキー・ヤタロウ」と
ぼくの耳には
たしかにそう聞こえた
*「寛政句帳」より。
「ヤタロウ」(弥太郎)は一茶の幼名
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宮沢肇氏のことは何も知らなかったが、多くの詩集をお出しになっておられる。
『雄鶏』(1959年) 『青春寓話』(1964年) 『仮定法の鳥』(1982年) 『鳥の半分』(1991年) 『帽子の中』(1996年) 『宮沢肇詩集』(1997年) 『朝の鳥』(2000年) 『分け入っても』(2003年) 『舟の行方』(2009年) 『海と散髪』(2015年) など。
ここに記して敬意を表しておく。
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