冬つばき世をしのぶとにあらねども・・・・・・・・・・・・・・・・久保田万太郎
久保田万太郎の句は私も大好きなので何度も採り上げてきた。
万太郎は夫人を亡くされてから「隠棲」された。
身辺には或る女の人が寄り添っていたが、その人にも先立たれて沈潜した生活をしていた時期があるが、この句はその頃のものであろうか。
「寒椿」または「冬椿」とも書かれるが、この花はツバキ科で、山茶花や茶とは同じカメリア属である。
椿は、なかでも「薮椿」と呼ばれるものは、学名をCamellia japonica と言うように、日本の固有種である。
日本では、初冬から晩冬にかけて寒中に咲くものを「寒椿」と称している。
寒椿の学名はCamellia sasanqua cv. Fujikoana と言うが、ラテン語の学名の付けかたの世界では「cv」とは「園芸品種」とされている。
藪椿が、日本固有の椿の原種ということであろうか。詳しいことは学名のページを見てもらいたい。
写真①は、「獅子頭」(ししがしら)という品種の寒椿で、物の本によっては「山茶花」に分類されているのもあるとのことで、まことに紛らわしい。
椿や山茶花については先に詳しく書いたが、椿と山茶花との区別の仕方として、ツバキは花が散るときに萼(がく)のところから、花がポロッと全体が落ちるのに対して、
サザンカは花びらが一枚づつばらばらと落ちる、という違いがあるとされている。
しかし、寒椿の花は、サザンカと同じように花びらがばらばらに散るものもある、というから、余計にややこしい。
一般的にツバキは、いま書いたように花全体がポロッと落ちるので、昔の武士は縁起が悪いと嫌がったという。
先に書いたように、学名でもCamellia sasanqua までならサザンカなのである。
なお、Camellia というのは17世紀のチェコの宣教師Kamell氏の名に因んでいることも、椿のところで書いたと思う。
写真②は白の寒椿である。山茶花か寒椿か、紛らわしいと追求されても私には判定は出来ない。
歳時記を見ると、一重咲きの早咲きには白に紅の絞りの「秋の山」、桃色の「太郎冠者」があり、
八重のものには白の牡丹咲きの「白太神楽」、紅絞りの「白露錦」というような品種があると書いてあるが、
それらの写真がないのは残念である。
寒椿を詠んだ句を引いて終わりたい。
竹薮に散りて仕舞ひぬ冬椿・・・・・・・・前田普羅
冬椿落ちてそこより畦となる・・・・・・・・水原秋桜子
寒椿つひに一日の懐手・・・・・・・・石田波郷
寒椿落ちたるほかに塵もなし・・・・・・・・篠田浩一郎
山の雨やみ冬椿濃かりけり・・・・・・・・柴田白葉女
寒椿朝の乙女等かたまりて・・・・・・・・沢木欣一
白と云ふ艶なる色や寒椿・・・・・・・・池上浩山人
妻の名にはじまる墓碑や寒椿・・・・・・・・宮下翠舟
海女解けば丈なす髪や冬椿・・・・・・・・松下匠村
寒椿嘘を言ふなら美しく・・・・・・・・渡辺八重子
花咲いておのれをてらす寒椿・・・・・・・・飯田龍太
寒椿月の照る夜は葉に隠る・・・・・・・・及川貞
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