
山椒(さんせう)の脇すぎたれば葉ずれして
匂ひたつなりすずやかなる香・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るものである。
写真①がサンショウの花である。
山椒の匂いは葉から発するもので花そのものには匂いがあるかどうかは判らない。
掲出した歌の次に
摘み取りし山椒の若葉を摺りこみて田楽豆腐の竹串ならぶ・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
という歌があるが、季節の木の芽として香り高く、重宝なものである。もちろん私の方には山椒の木がある。

写真②が山椒の実である。
今その実が緑色に色づいて一杯なっているところである。
実は熟すると黒っぽくなるが、一般的には完熟させることはない。というのは青いまま採りいれて、山椒こんぶとか、佃煮とかに実を使うからである。
「山椒ちりめん」などちりめんじゃこと山椒を炊いて、よく乾かしたものは熱いご飯に載せると美味なものである。
山椒のぴりりと辛い成分は腐敗を防ぐ作用もあるらしい。日本人の生活の知恵である。
山椒の木は香りの強い木であるが、こういう香りの高い木の葉を好む虫がいるので始末が悪い。
アゲハチョウの類の蝶である。写真③はクロアゲハ蝶の雌である。

この歌のつづきに
山椒の葉かげに卵を生みゐたる黒揚葉蝶わらわらと去る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
という歌がある通りである。この幼虫自身も、つぶすと山椒の匂いがする。
大きな山椒の木になると多少食われても支障はないが、苗木の段階では、すっかり丸坊主にされてしまうことがある。
油断も隙もあったものではない。写真④はクロアゲハ幼虫の終齢期のもの。

山椒の花、山椒の芽は俳句では春の季語である。
それらを少し引いて終わりたい。
日もすがら機織る音の山椒の芽・・・・・・・・長谷川素逝
芽山椒の舌刺す一茶の墓詣・・・・・・・・野沢節子
朝夕に摘む一本の山椒の芽・・・・・・・・上村占魚
芽山椒青年を摘む匂ひして・・・・・・・・星野明世
花山椒煮るや山家の奥の奥・・・・・・・・松瀬青々
風立てば山椒の花も揺らぎたる・・・・・・・・神津杉人
誰か知る山椒の花の見え隠れ・・・・・・・・渡辺桂子
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