
律儀にも今年も咲ける曼珠沙華
一途(いちづ)なることふとうとましき・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載せたものである。ただし自選の中には採っていないので、Web上ではご覧いただけない。
この花は「ひがんばな」とも言うが、秋のお彼岸の頃に咲き出すから、この名前がある。ヒガンバナ科の多年生草本。地下に鱗茎があって、秋に花軸を伸ばし、その上に赤い花をいくつか輪状に開く。花弁が6片で反っており、雄しべ、雌しべが突き出している。人によっては妖艶ということもあろう。葉は花が終ったあと、初冬の頃に線状に生えて、春には枯れる。

写真②は白花である。東京では皇居の堀の土手に密集して咲いているのを見たことがある。
写真③は、その冬に生える葉の様子である。

根に毒を持つ有毒植物であり、墓地の辺りに咲いたりするので、忌まわしいという人もある。「曼珠沙華」というのは「法華経」から出た言葉で赤いという意味らしい。
古来、俳句や歌謡曲などにも、よく登場する花である。
蕪村の句に
まんじゆさげ蘭に類ひて狐啼く
というのがあるが、そういうと、この花は蘭に似ていなくはない。鋭い観察である。
以下、歳時記からヒガンバナの句を引く。
葬人の歯あらはに哭くや曼珠沙華・・・・・・・・飯田蛇笏
曼珠沙華消えたる茎のならびけり・・・・・・・・後藤夜半
考へて疲るるばかり曼珠沙華・・・・・・・・星野立子
論理消え芸いま恐はし曼珠沙華・・・・・・・・池内友次郎
つきぬけて天上の紺曼珠沙華・・・・・・・・山口誓子
曼珠沙華南河内の明るさよ・・・・・・・・日野草城
曼珠沙華落暉も蘂をひろげけり・・・・・・・・中村草田男
四十路さながら雲多き午後曼珠沙華・・・・・・・・中村草田男
まんじゆさげ暮れてそのさきもう見えぬ・・・・・・・・大野林火
曼珠沙華抱くほどとれど母恋し・・・・・・・・中村汀女
彼岸花鎮守の森の昏きより・・・・・・・・中川宋淵
寂光といふあらば見せよ曼珠沙華・・・・・・・・細見綾子
曼珠沙華逃るるごとく野の列車・・・・・・・・角川源義
西国の畦曼珠沙華曼珠沙華・・・・・・・・森澄雄
曼珠沙華忘れゐるとも野に赤し・・・・・・・・野沢節子
曼珠沙華わが去りしあと消ゆるべし・・・・・・・・大野林火
曼珠沙華どれも腹出し秩父の子・・・・・・・・金子兜太
五欲とも五衰とも見え曼珠沙華・・・・・・・・鷹羽狩行
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