
↑ アンソロジー『詩と思想詩人集2012』(土曜美術社刊)← 538名の現代詩作家を集めたもの。

口 伝・・・・・・・・・・・・・・・・・坪井勝男
この惑星の地軸が
少しばかり傾いているお蔭で
どんなに猛暑が続いても
こうして
この列島にも 秋がくる
寒蝉(ひぐらし)が遠い記憶の谷間で鳴き始めると
ぼくは背筋を伸ばして杜にゆく
ヒトであることに疲れたら
幹に凭れて
樹に流れる いのちの水音でも聴いていよう
この巨樹をめぐる陽光と風
枝々のざわめきは
屈折し重なり合ううちに
言語を超えたコトバを投げかけてくる
それは
たぶん
見知らぬ 親しい者たちからの口伝(くでん)なのだろう
聞き取ろうと
手を擦りながら
風に耐えている
千枚あまりの年輪を包む ひび割れた樹皮
梢の方を見やる
あ
いま
文脈を捉えたような気がする
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この詩はアンソロジー『詩と思想詩人集2012』(土曜美術社2012/08/31刊)から引いた。
今年の猛暑は異常だし、今日も残暑というのも憚られるほど暑いが、季節というものは正直なもので、いつしか秋風が吹くようになる。
そういう推移を、この詩は、うまく詩にしている。
「早く涼しくなってくれ」という願いもこめて、この詩を出しておく。
この作者のことを検索してみると
1929年生まれ。詩集として『樹のことば』『見えない潮』などがあるらしい。アマゾンで買えるようである。
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