FC2ブログ
K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
202007<<12345678910111213141516171819202122232425262728293031>>202009
志野暁子歌集『つき みつる』・・・・木村草弥
志野_NEW

──書評──

      志野暁子歌集『つき みつる』・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                     ・・・・・角川書店2018/07/25刊・・・・・・

同人誌「晶」で作品を拝見している志野暁子さんの23年ぶりの本が恵贈されてきた。
先ず、志野暁子の略歴を本書から引いておく。

1929年 新潟県に生まれる
1975年 作歌を始める。「人」短歌会に入会、岡野弘彦先生の指導を受ける
1981年 「花実」50首により第27回角川短歌賞受賞
1995年 歌集『花のとびら』上梓
1996年 「人」短歌会解散により季刊同人誌「晶」に参加、現在に至る
2012年 「しろがね歌会」に入会

本名 藤田昭子

この本には別冊子として、志野暁子の短歌による合唱組曲「九月の花びら」より「サフラン」 「九月の花びら」 「蕊」の三曲の楽譜が添えられている。
因みに、その原歌は下記の通り。   作曲者・筒井雅子

  <薄き翅畳むにも似てサフランの花閉ぢしのちながきゆふぐれ>
  <秋の日のなぜにみじかき サフランは地にわき出でて葉を待たず咲く>
  <かごめかごめ唄ふ幼き輪の中に瞑りて一本の蕊となりゆく>

画像でも読み取れるように、この本の刊行に合わせて、師・岡野弘彦による「帯」の歌

  <おのづから胸に涙のあふれくる シューマンの曲 聞きて眠らむ>
  <今半の牛のそぼろは ほろほろと膝にこぼれて かなしきものを>

が贈られている。何とも微笑ましい師弟愛である。
「つき みつる」という題名が何とも言えない趣があるが、歌集の中を仔細に読んでみても、そのままのフレーズの歌は無い。
岡野弘彦は折口信夫─釈迢空の弟子で、歌の表記について独特の主張を持っていた。
歌の中に句読点を付けるとか、一字空けとかである。
そんな弟子らしく、この歌集でも「一字空け」が多用される。題名の「つき みつる」から、そうである。

この本の「あとがき」に中で、こう書かれている。

<世に言う〈老老介護〉十年間の作品を主に、452首をまとめました。
 ・・・・・少しでも楽なように、喜んで貰えるようにとささやかな努力を重ねてきたという点で、介護の歌も相聞に通じるところがあるのかもしれません。
 ・・・・・夫の余命と示された時間はとうに過ぎました。この世の残り時間、かけがいのない時間を二人で大切に生きたいと思っております。>

何とも羨ましい、お二人の関係である。
巻末の辺りの歌には介護施設に入られたとおぼしいものもあるが、多くは自宅で介護されているようである。

以下、本の順序に沿って歌を見て行きたい。

*ひと日生きて残り世ひと日費(つひ)えたり 今日初蝉を夫はよろこぶ
*余命といふこの世の時間──夫と歩む 小鳥来るさへよろこびとして
*〈おーい〉 呼べばおりてきさうな春の雲 介護タクシー夫と待ちをり

この本の巻頭に載る歌である。
これらの歌は「老老介護」の時間の中でも初期の頃の歌かと思われるが、著者の「夫(つま)恋い」の歌とも思われて微笑ましい。
それらの歌に続いて、巻頭近くに、歌曲にもなった歌の一連がある。下記に引いておく。

*さくら貝は九月の花びら あかときの渚をわれは素足に歩く
*薄き翅畳むにも似てサフランの花閉ぢしのちながきゆふぐれ
*秋の日のなぜに短き サフランは地にわき出でて葉を待たず咲く

作者の故郷は新潟県の、佐渡であるらしい。

*〈佐度ノ嶋生ミキ〉古事記に誌さるる島山あをきわれのふるさと
*朱鷺の棲むあたりと指され目を凝らす日照雨降る刈田かすめり
*雪国生まれの夫と見てをり舞ひながら土に届かず消ゆる淡雪

夫も雪国生まれらしい。故郷を同じくするということは話題性も合って、いいことなのだ。
この本は老老介護の歌ばかりではない。「孫」を詠んだと思われる、こんな歌もある。

*一年生百五十人が遠足の列をゆき麒麟がじつと見おろしてをり
*宿題の片仮名書きつつ好きなのは体育、図工、給食よと言ふ
*一年生八十メートル走のゴール前わが子わが子とカメラが並ぶ

いつ頃の歌であろうか。奈良、京都、ハワイ真珠湾などの歌が見られるが省かせてもらう。
介護の歌にも「二年目」とかの文字が見えて「経年経過」である。

*母ひとりとり残されしふるさとよ ふりむけば暗く海ふぶきゐる

など「母」を詠んだ一連もある。

*ギニョールのごとく病み臥して耳さとく聴きをりつばくろ帰りたるこゑ
*朝空に郭公鳴けり病むわれに吉事を運ぶこゑと思へり
*落ちこんでゐる隙はないといふこゑす この世は花がもう散つてゐる

介護する作者も病気になったのである。さぞや、やきもきされただろうとお察しする。

*われに昭 弟に和と名付けたる父よ 昭和も弟も逝きぬ
*葉に透きて殻脱ぎてあり脱ぎて羽を得しもののこゑ木立より降る
*眠られぬわがため子守歌くちずさむ窓に夜明けのひかり来てをり
*〈また来ます〉〈またとはいつか〉問ひかへす夫の眼差し抱きて帰る
*麻痺やがて嚥下に及ぶを言ふ医師のしづかなる声背をたてて聞く
*九十五年の生涯に他に語らざるインパール戦線の三年があり
*〈また明日ね〉うなづかせて夜を帰りきぬ 夫よかけがへのなき時が過ぎゆく

鑑賞も、そろそろ終わりたい。
挽歌を詠う前に、歌集を纏められた労を多としたい。
癌を病む妻と最後の年月を伴走した私には、よく分るのである。
大変だと思うが、あと、しばらく頑張っていただきたい。
ご恵贈ありがとうございました。 
-------------------------------------------------------------------------
角川書店「短歌」誌2018/06月号に、志野さんの新作が掲載されている。  ↓   
志野_NEW

志野_0001_NEW

画像としても読み取れると思うので、ご鑑賞ください。           (完)




コメント
コメント
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック
copyright © 2020 Powered By FC2ブログ allrights reserved.