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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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玉井清弘歌集『谿泉』・・・・木村草弥
玉井_NEW

──新・読書ノート──

      玉井清弘歌集『谿泉』・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・角川書店2018/09/14刊・・・・・・・

この本が恵贈されてきた。
玉井さんの第九歌集である。
玉井氏は私の第一歌集『茶の四季』上梓のときに、角川書店「短歌」誌上に紹介の記事を書いていただいた恩のある方である。
その後も歌集ご出版の都度、このブログで鑑賞の記事を載せてきた。
玉井清弘というのは、こういう人である。 この本に載る略歴を引いておく。

1940年 愛媛県生
1976年 第一歌集『久露』
1986年 第二歌集『風筝』 芸術選奨文部大臣新人賞受賞
1993年 第三歌集『麴塵』 
      『鑑賞・現代短歌 八 上田三四二』
1995年 『現代短歌文庫 玉井清弘歌集』 
1998年 第四歌集『清漣』 日本歌人クラブ賞受賞
2001年 第五歌集『六白』 山本健吉賞、短歌四季大賞受賞 
2004年 第六歌集『谷風』
2007年 『時計回りの遊行 歌人のゆく四国遍路』
      第七歌集『天籟』
2013年 第八歌集『屋嶋』 詩歌文学館賞、迢空賞受賞
     他に香川県文化功労者、文化庁地域文化功労章、四国新聞文化賞など

ここに見られるように、まさに現代短歌界の重鎮であられるのである。
この題名の「谿泉」は谷間から湧き出る水のこと、と書かれている。
玉井さんについては『時計回りの遊行』など、いくつかの本について紹介してリンクになっているので、お読みいただきたい。

以下、この本について書き進める。
この本の「帯」のキャプションが読み取れると思うが、玉井さんは「遍路」をよくなさる。
三回の「歩き遍路」を結願され、今は四回目の遍路にかかられた様子である。

<四国は海に取り巻かれた繭のような島、遍路道は基本的に海沿いに円環をなしている。
 島自体が曼荼羅の世界、空海の歩いたとされる道をたどる行道である。
 歩きながら自己の成育歴、道中でのお接待への感謝などが脳裏をめぐっていた。
 四国の風土へもおのずと思いはひろがっていった。>

と「あとがき」に書かれている。
玉井さんは新聞の「短歌」欄の選者もなさっているので週単位で忙しいと思われるので、その合間を縫っての、短い「歩き」を刻んでおられるのであろう。

この本は日常について坦々と歌が詠まれてゆく。
今までの本では夫人や家族のことは全くといっていいほど登場しなかったが、この本では少し姿を見せる。

*半夏生忘れていたる昼どきにうどん屋に行こうと妻の声あり
*かぶとむし雄のみ残る飼育箱妻は朝の餌を与えおり
*ふだんより二時間近く早起きし敬老会の世話にゆく妻

微笑ましい夫婦の日常のやりとりである。
それだけ玉井さんも齢をとられたということであろうか。
二首目の歌は、恐らく、離れ住む孫が訪ねてきて置いていった飼育箱かも知れない。
三首目の歌からも、世間付き合いに携わる奥様の姿が彷彿として来る。
私などは妻のことなど多く詠んできたので、敢えて書き抜いておく。
ついでに孫と思われる人物などを詠んだ歌を引く。

*寝がえりの出来始めたる幼子にこの世きらきら万華鏡なす
*長男のきたりて厨を覗きたり飯は食べなよと言いて帰りぬ
*ここまでをよく生きたるとおどろくに誕生日祝う童女の電話
*「おいくつですか」「七十六、わかるかな」童女の声のぷつりとぎれぬ
*じいじいを祝うとちぎり絵なしくれき真っ白の髪に眼鏡を添えて

こういう歌群も今までの歌集にはみられなかったものである。
恐らく、批評では出て来ないと思うので敢えて書いておく。微笑ましい日常の景である。

以下、私が目をとめた歌を列挙して終わりたい。

*散華とう若き死ありきうろんなる世にこともなくわれは生き延ぶ
*迷いたる四国の辺地 変化とはならざりしわれ手足撫でみつ
*閉塞感濃くよどみたる時代へとぽたっとひとつ椿の落花
*四国路を時計回りにめぐりゆく螺旋をなして芯を射るべし
*若きらの働いている午後三時ごめんねと言いてわれは晩酌
*椀ひとつ欲しと仰げる泰山木空に向かって開きていたり
*天狗久の木偶並びたり夜半起きてとうどうたらり翁は舞わん
*白雲木咲けるを見よと呼びくれき その人逝きて季節また来ぬ
*しんまめと呼べるみどりの初夏の味そらまめ肴に地の酒を酌む
*香月泰男の墓石にふれしうつしみは「青の太陽」の空につつまる
*芋大根蓮根筍焚き合わす煮物のよけれ湯気に立てる香
*十九丁打ちもどりとう看板にやっぱりこの道行くと決めたり
*おんかかかび唱えてめくれと言われたり地蔵菩薩の前掛けめくる
*秋田より一白水成届きたり辛口の酒陸奥かおる
*白味噌の餡餅雑煮よろこびて新しき年のはじまり祝う
   四度目の歩き遍路を観音寺から始める。結願にいたるか・・・・。
*ひとり行く菜の花道に思いいるあの人この人亡き人ばかり
*悟故十方空われには見えずおそろしき時空にひらく白梅の花
*うつつ世に桜のあれば樹にふれて人のかなしみ語らんとする
*黒揚羽ゆらゆらと来て滝の前胸突き八丁苦しみて越ゆ
*銀やんまむくろのすがたかたちよしつまみあげたる色さらによし
*みごもれることと字源に解かれいる「包」はたっぷり「勹」をいただく
*朝一の一番釜のうどんへと並ぶ讃岐の男ら寡黙

玉井さんは酒好きである。
この本の中にも、いくつか愛惜をこめて詠われている。 そのいくつかを引いてみた。
ご恵贈に感謝して不十分ながら鑑賞を終わる。 有難うございました。   (完)


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