
──新・読書ノート──
玉井洋子詩集『霾る』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・澪標2017/08/22刊・・・・・・
難しい漢字である。「霾」とは、れっきとした中国伝来の古い字である。
図版でも読み取れるように日本語の「訓」では「つちふる」と訓むが、いまどきの言葉で言えば「黄砂」のことである。
昔の中国人は、黄砂のように砂が巻き上げられ、空が暗くなるのは「タヌキ」が悪さをしているから、と理解したのだろう。
だから「雨かんむり」に「狸」という旁の漢字になっている。こういう「会字文字」は、一見して意味が分かりやすくて佳い。(閑話休題)
玉井さんは神戸の人で君本昌久校長の「市民の学校」の事務局を長く勤められたという。
前詩集に阪神大震災を詠んだ『震える』があるという。
この本には40篇の詩が収録されている。「たかとう匡子」さんと「倉橋健一」氏の「栞」文が挟んである。
先ず、題名になった詩を引く。
霾る 玉井洋子
食べてよというので
茹でて
おかあげにしておいた
舞茸が
花椒(フォアジャオ)をかけてねという
使ったことがないので渋っていると
いいからとせっつく
食は広州にありというから
ひとっ走り行ってこようかなと思ったけれど
空も海も
閉ざされていて
渡れない
オアシスに行ってみると
棚で待っていてくれた
花椒花椒花椒
これでどうだ
たっぷりふりかけ
バターでいためて
食べてやった
おともなく
霾る
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<おともなく/霾る>の結句が、起承転結の「転」のようで、快く、的確である。
Ⅲ章の題名になっている詩を引いておく。
六月どこでなにしてた 玉井洋子
木洩れ日が文字をゆらした
一人
二人
きて
三人去った
長い葉柄くるくる
どこよりも早く
風があつまる
ポプラに
巣
と
カラスが
後になり先になり
蠱惑的なダンスなんかしてみせて
囮る
二人連れが横切りました
黒髪をシュシュで束ね
トイレットペーパー抱えたお嬢さん
一ロール60メーターとして
総延長720
小公園がぐるっと囲い込める距離
快 快 快 食う 眠る 便々
平和な日本
六月どこでなにしてた
高いポプラの木の上で卵呑んでた
羽毛のようなものが喉に残った
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そして、もう一篇引いておく。
ランゲルハンス島からの便り 玉井洋子
陶器の白は
大根の白
まるい便器を拭きながら
ふと考える
大根っていいね
切っても切っても
まんまるで
食べても食べても
まっすぐで
じんわりしぐれが降っている
・・・・・・・
こうして
大根一本まるごと味わえるようになると
オトナだね
・・・・・・・
ランゲルハンス島から便りがとどく
・・・・・・・
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「帯」文に書かれている通り、「霾る」という言葉が象徴する世界が展開される。
不十分な鑑賞ながら、この辺で終わりたい。 (完)
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