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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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萩岡良博エッセイ集『やすらへ。花や。』・・・木村草弥
萩岡_NEW

──新・読書ノート──

     萩岡良博エッセイ集『やすらへ。花や。』・・・・・・・・・・・・木村草弥
                  ・・・・・北冬舎2018/09/30刊・・・・・・

萩岡氏は前登志夫創刊の短歌誌「ユママユ」の編集長をなさっている。
第二歌集『木強』を恵贈されて以後『禁野』『周老王』などの歌集を出され、その都度このブログで採り上げてきた。
それぞれの記事は「リンク」にしてあるのでアクセスして、ご覧いただきたい。

この本は、北冬舎のシリーズ≪主題≫で楽しむ100年の短歌・桜の歌の一冊として刊行されたものである。
ここに収録された文章は、「初出一覧」によると、主として「ヤママユ」に2008年以降書き継いで来られたものである。
引用された歌人、小説家などの著書、人名などの一覧も巻末に付けた資料的な配慮もなされたもので感服するばかりである。
萩岡氏は奈良県の高校「国語」教諭から、高校校長なども歴任された謹厳な教育者であられた。
それらの経歴が、この本の編集ぶりの中に色濃く出ている、と言えるだろう。
巻頭には自身で撮られた桜の樹の写真12枚が載っている。 作者の住む大宇陀の地に咲く有名な「又兵衛桜」など、である。

この本の題名にもなっている、巻頭の「やすらへ。花や。」について少し書いてみる。
  <桜が咲くと、こころが浮き立つ。あそこの桜は咲いただろうか。
   ・・・・・私たちの祖先の桜に対してもっていた鎮魂の思いが、私の血の中にも脈々と流れているにちがいない。
     老いてなほ艶とよぶべきものありや 花は始めも終りもよろし  斎藤史 『秋天瑠璃』

と書いて次段で、個人の魂鎮めとして
    <われに棲み激つ危うきもののためひとりの夜の鎮花祭  武川忠一 『窓冷』
を引いて、こう書かれている。
  <散る花とともに飛散すると信じられていた疫神を鎮めるために行われた「鎮花祭」の際の囃子詞「やすらへ。花や。」は、桜の花を稲の花に見立てて、早ばやと散ることを凶作の兆しとするため、「散り急ぐな花よ」という意味をこめているという。>
と書いて、折口信夫「花の話」の中の囃子詞に触れた後に、山の神に花を供えるという古い信仰に支えられた民俗を重ねて、鳥越晧之の解釈を見せる。
    <野の花や桜などの枝花には鎮める機能があると解釈した方が自然である。すなわち「花が鎮める」と解釈できるということ     である。・・・・・>

この本は、萩岡氏の読書遍歴を見るようで何とも情趣ふかい。
夭折した永井陽子の何冊かの歌集。 詩人・茨木のり子の「さくら」の詩。
ここで、この本に載る萩原朔太郎の詩を引いてみる。

   <人生の春のまたたく灯かげに
    嫋めかしくも媚ある肉体を
    こんなに近く抱いてるうれしさ
    処女のやはらかな肌のにほひは
    花園にそよげるばらのやうで
    情愁のなやましい性のきざしは
    桜のはなの咲いたやうだ      萩原朔太郎「春宵」 『青猫』   >

また三好達治の詩も引いてみよう。

    <あはれ花びらながれ
     をみなごに 花びらながれ
     をみなごしめやかに語らひあゆみ
     うららかの跫音空に流れ
     をりふしに瞳をあげて
     翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
     み寺の甍みどりにうるほひ
     廂々に
     風鐸のすがたしづかなれば
     ひとりなる
     わが身の影をあゆまする甃のうへ      三好達治「甃のうへ」     >

私自身が三好達治などの近代詩が好きなので、引きすぎたかもしれない。
このように、この一巻は萩岡氏の読書遍歴を辿るような心地になったものである。

引き出すとキリがないので、後いくつか引いて終わりたい。

   いやはてに鬱金ざくらのかなしみのちりそめぬれば五月はきたる   北原白秋 『桐の花』

   はたた神またひらめけば吉野山桜は夜も花咲かせをり   前登志夫 『樹下集』 

   うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花  若山牧水 『山桜の歌』  

   あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ  永井陽子 『ふしぎな楽器』

   咲ききれば散るほかはなし吹く風は桜の肩をやさしく抱け  萩岡良博 『木強』

   やはらかき春のひかりにめざめけり森ふかく湧く笑ひごゑ曳き  萩岡良博 

   わが性欲にかぎろひの立つ見えて見る人のなき朝の身支度いそぐ 萩岡良博 

   山ざくらさはだつ夜なり半獣のひづめの音の風にまざりて  萩岡良博 
 


ご恵贈ありがとうございました。
不十分な鑑賞をお詫びする。     (完)


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