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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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田中成彦第五歌集『瞑想曲』メディタション・・・木村草弥
田中_NEW

──新・読書ノート──

     田中成彦第五歌集『瞑想曲』メディタション・・・・・・・・・・・・・木村草弥
              ・・・・・・北斗書房2018/10/11刊・・・・・・

田中氏の歌集を今回も恵贈された。
前歌集『田園曲』については ← このブログに書いたので参照されたい。

田中氏は音楽に詳しいようで著書には、すべて題名に音楽用語が付けられている。
第一歌集『前奏曲』はプレリュード、第二歌集『喜遊曲』はディヴェルティメント、第三歌集『協奏曲』はコンチェルト、そして第四歌集『田園曲』はパストラーレ、である。
今回の題は『瞑想曲』メディタションである。
このラテン語のことだが、大学の時に、哲学の演習で使ったテキストがデカルトの「省察」メディタシオンだったことを思い出した。
前歌集が海外旅行詠のみの本だったので時期的には重なるもので2005年から2013までの総歌数435首と書かれている。

田中氏の経歴を書いておく。
「吻土短歌会」を主宰しておられ、進学校として名高いヴイアトール学園・洛星高校の元副校長であられた。キリスト者である。
もちろん先生は、この学校の出身で、茶道三千家のひとつ武者小路千家 家元 千宗守宗匠なども此処の出身であるという。
京都歌人協会評議員。日本歌人クラブ代表幹事(京都府)。現代歌人協会会員。読売新聞「京都よみうり文芸」選者。などを務めておられる。

田中_NEW


この本の口絵カラー写真として「長塚節 歌・岡麓 書」という歌碑の拓本が載っている。
歌は <うれしくも/分けこしものか/遥々に/松虫草の/さきつづく山> というものである。
岡麓の優しい筆跡が何とも言えない趣の書である。
この口絵が象徴するように、この本の雰囲気は平明そのものである。

先ず、先に書いた「口絵」の歌に因む個所から鑑賞に入りたい。
口絵に因む歌は2009年の「甲信紀行」という項目の中に収録されている。当該部分を引く。

*青紫の濃きと淡きが成すかたち松虫草よと沁みて頷く
*咲き続く山と詠み据ゑいかばかり充ち足りにけむ旅の節(たかし)は
*年長く会ふを願へる歌碑ありと湖畔の早き朝を起き出づ(諏訪湖)
*心ふかき刀自に給ひし拓本の歌碑恋ひ恋ひて幾年経たる
*紛れなく同じき揮毫よと見つつ確かむ「麓書」の二字
*わが旅も遥ばろにして今朝遂に諏訪の節の歌碑に対へり
*拓本に見し凹凸をなぞるがに歌碑の彫りあと指もて押さふ
*アララギの故地なる宿屋布半に旅の終りの歩みをとどむ(上諏訪)
*赤彦の私信の一節刷られある箸紙もまたこの宿の自負

多く引きすぎたかも知れない。口絵を掲げるという執着に応えて当該部分を引いてみた。

「斑鳩三塔」という項目の歌に

*「瓔珞をうごかす風」とは何ならむ八一の歌を尼僧と語る

というのがある。 その由来は次のようなものである。

・くわんおん の しろき ひたひ に やうらく の かげ うごかして かぜ わたる みゆ・

 「山光集」所収。

 会津八一の短歌は「平仮名表記」「一字アケ」で知られる。
短歌が「和歌」と呼ばれた前近代から、和歌はカナ文字の連綿体で書かれるのが本来的なものであった。いわゆる「続け文字」である。
平仮名には独特の美しさやたおやかさがある。作者は奈良古美術の研究者だけに、そのあたりのことを考慮したのだろう。
 ところが、活字印刷が普及し識字率も上がってくるとカナ書きでは読みにくい。そこで一字アケとなったのである。単語を一つの単位として「一字アケ」を用いている。
現代では既に読みにくくなっているので、漢字仮名まじりの表記にしてみる。

・観音の白き額に瓔珞の影うごかして風渡る見ゆ・

となる。仏殿中の観音像を詠んだものだ。(「瓔珞・ようらく=仏像または天蓋の飾り」)

 風はもともと見えないものだ。しかし、観音像の白い額につるした飾りの影が動いて風が吹いてくるのがみえる。ここに詩的把握がある。

 「うごかして」と風を擬人化しているところが、その把握を確かなものにしている。

会津八一は1881年(明治14年)生まれ。斎藤茂吉の同世代である。5・7・5・7・7の詩形がようやく「短歌」と呼ばれるのが定着し、旧派和歌を乗り越えてきた時期である。
ものの見方、表現方法に工夫が見られる。
これも近代短歌の試みのひとつだったのだろう。

このようにして、作者の歌から想念が、さまざまに拡がってゆくのも楽しいものである。

作者・田中氏の歌は先にも述べたが、「平明」そのものである。 だから熟読玩味していると何とも言えない趣が出てくる。
多くの歌を引くことは出来ないので終りを急ぎたい。
巻末近くに「されどわが町」という項目がある。
2013年、結婚後の住まいであった亀岡を去り京都市下京区に転居された。現住所は十一歳まで過ごされた町内に隣接するという。

*しはぶきの軽き二つに注ぎくるる番茶謝すれば昼の明るむ
*手に取り味はひたしと不意にしも思ふ赤楽 銘「無一物」
*住むよりも長き時間をともにして勤めし町ぞやがて離れむ
*半世紀入る機会なく行き過ぎし場末のパチンコ衣笠会館閉ぢつ
*通ひ継ぎ何かにつけて老いゆくと思はるる町されどわが町
*黒松の枝ぶり眺め茶など喫むいとま得たれどやがて別るる

最後に引いた歌は、巻末に載るものである。
平明な歌の雰囲気に浸った安らぎの裡に、この鑑賞を終わりたい。
ご恵贈有難うございました。      (完)


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