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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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山下正子『画・短歌集 旅路』・・・木村草弥
山下_NEW

──新・読書ノート──

     山下正子『画・短歌集 旅路』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
             ・・・・・文理閣2018/10/30刊・・・・・・

以前、読書会「独楽の会」で、ご一緒した山下正子さんが、標記の本を出された。
この読書会が発足する母体となったのは、『女たちの長谷みち─「蜻蛉日記」「更科日記」の旅』 (西野信明編/独楽の会著。文理閣刊)であるらしい。
私は、その後に入会しているのである。
「女たちの長谷みち」は当該日記の記載の道程を辿るというもので参加者が、それぞれのパートを受け持って、実際に歩いてみて本にされた。
読書会は二か月に一度ひらかれたが、テキストの選択などに山下さんの目が届いているのを感じたものである。

この本によると、山下さんは1930年3月生まれ。
1945年3月14日の大阪大空襲を体験。
大阪市立美術館友の会、大阪市教育委員会、毎日新聞大阪本社出版編集部校閲科勤務の後、子育てのため退職。
城陽市在住中の1986年、宅地開発で見つかった十二号古墳破壊に反対し、住民運動として「差し止め請求訴訟裁判」に参加、勝利判決。現在は最古級古墳として「国指定文化財」となっている。
新日本歌人協会会員。
著書は前述の本のほかに『食糧もんだいアップリケ─主婦の調べた食卓事情』 (4本のえんぴつ編著、文理閣刊)などがある。
御夫君は、立命館大学教授、中京学院大学教授などを歴任された山下高之氏で2007年に亡くなられた。

この本は前半が正子さんのスケッチ画の写真版であり、後半が歌集『白木蓮』で「滋賀民報」や「新日本歌人」に発表された496首の歌が収録されている。
スケッチは御夫君の留学に同行した半年の間に、せっせとスケッチされたものである。
歌集『白木蓮』には、選者の佐藤靖彦氏の3ページにわたる「序文」が載せられている。
正子さんが短歌を始められたのは御夫君が亡くなられた後からのようである。
私が「独楽の会」に居たときは、私が短歌を作っていることは周知のことであったが、山下さんから作歌のことは聞いたことがなかった。

この歌集の始めに、こんな部分がある。

     夫逝く

  病室を明るく灯す娘らよりの結婚五十年祝う花のアレンジ

  夫の心臓養いし冠動脈四たびの不全に蘇生かなわず

  五十日の入院とともに過ごしたる夫は身罷りわれ孤りなり

  殲上露何易晞    殲上の露 何んぞ晞き易き

  露晞明朝更復落  露は晞けば明朝さらに復落つ

  人死一去何時帰  人は死して一度去れば何れの時か帰らん

      2007年11月9日

難しい漢詩が載っていたりして、山下さんの教養が偲ばれる。  
この日付から考えて、御夫君が亡くなられて十余年が経つので、この機会に、この本にまとめることを考えられたのではないか。

以下、山下さんの歌を引いて鑑賞を終わりたい。

  *蜜入りのリンゴ剥ぐ手の止まるなりこの年の瀬に「派遣切り」三万

  *冬花火湖上に華とひろがれど側に夫亡く冷ゆるベランダ
  *木曽路にて夫の購いし桧椀日ごと使えど色艶褪せず
  *資本論第一章の学びなれ八十半ばまでぶれずに生き来し
  *われと夫のペアの登山靴下駄箱の奥に十余年動かさず在る
  *桃の花遺影に供えて話しこむ夫の知らざる原発の事故

御夫君との「語らい」の歌をまとめてみた。
経歴から判るように作者は、世の中の「理不尽」に怒る闘士である。
歌の中にも、それらが多く見られる。

  *軍事費を上げ介護報酬下げるなり戦に耐え来し老いら安まらず
  *“桜は本当に美しいのか”にどきりとし「桜といくさ」を深く考(おも)えり
  *放射能に無常の風のルビ振らんとう鱒二氏の序文今なお重し
  *ツイッターに原発ノーの声あげて官邸囲む若きらを信ず
  *水俣の水銀、使用済み核も廃棄の道筋未だ示さず

まだまだあるが、その一部を引いた。

  *聴覚も視力も今はおとろえて会議はいつも前列に座す
  *冷蔵庫の扉にビラやメモ貼るれり忘るることの多きこの頃
  *不整脈は心臓肥大からと言われ青信号をゆっくり渡る
  *スロベニアより明るき声の娘の電話ほこほことして夕食すすむ
  *初めてのインターネットの娘の電話ボツボツ切れしが明るき声なり
  *元旦に一族そろいて墓まいり酒好きの夫にビールを注ぐ
  *友とふたり青春きっぷの冬の旅雪の少なき伊吹山見つつ

「老い」の哀歓や、子供たちや友人との交流、などの歌を引いた。

歌集『白木蓮』の題名は

  *長生きが悪のはずなし白木蓮の青空に向けいっせいに咲く

から採られた、と佐藤靖彦氏は言う。
初春にモクレンの白い花が、びっしりと咲く様は、長かった冬から解放されるような気がするものである。
そんな意味で、この本が「白木蓮」と題されること、並びに全体の題名が「旅路」とされたこと、を喜びたい。
スケッチについても詳しく引くことをしないが、掲出の表紙の画像からくみ取っていただきたい。

山下正子さんの益々の、ご壮健と、ご健詠を祈って、私の拙文を終わる。
有難うございました。       (完)


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