FC2ブログ
K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
201909<<12345678910111213141516171819202122232425262728293031>>201911
折勝家鴨句集『ログインパスワード』・・・木村草弥
家鴨_NEW

──新・読書ノート──

     折勝家鴨句集『ログインパスワード』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
              ・・・・・ふらんす堂2017/04/27刊・・・・・・・・

この句集が恵贈されてきた。
折勝家鴨さんとは、FBの「友人」として出会った。 と言ってもヴァーチャルな付き合いであって、まだ会ったことはない。つい二か月くらい前のことである。
あ、これは不正確である。
名前を知ったのはネット上の「週刊俳句」の「2018角川俳句賞落選展」という記事の中で見つけて、私のブログの「月次掲示板」に何度か採り上げた。
そこには「*一次予選通過作品」の表示があったので、そこそこの実力の作家なのだということが分かった。
その命名が特異である。だから、初めから強い印象を持った。
ネット検索していると、この句集に載る「跋」の加藤静夫の文章が出てきた。
今回、現実の句集をいただく前に、この文章は目にしていたのである。
私は2004年からネット上でブログを書いていて、余程の事故がない限り毎日更新してきた。
私のブログは詩、歌、句という「短詩系」に特化したものとして編集しているので、俳句は物凄く、たくさん引用してきたが、現実の「句集」をいただくのは滅多に無い。
というのは、俳人には「俳人以外の者が、とやかく言うな」というような排他的な気風があるようなのである。
私はブログをやり始めるときから、大岡信「折々のうた」を参考にしてきたので、俳句、川柳などに拒否感は全くないし、逆に極めて強い「親近感」を持つことを強調しておきたい。
前置きが長くなった。

この句集は綺麗な造本である。こうしてスキャナで取り込むとハレーションを起こして分からないが地色に白くボカシで「鍵」が十個ほども描いてある。
装丁・和兎と書いてあるが、凝ったもので快い。
版元のふらんす堂の案内を読むと「ドイツ装」だと書いてある。
調べてみると「ドイツ装」というのは製本の初めの段階で表紙と背表紙に厚紙を糊付けする工程を指すらしい。
厚紙を貼るのはすべて手作業だというこで、あと強力なプレス機で、ぎゅっと押さえつけるらしい。
改めて、この本を手に取って、しげしげと眺めてみると、そのことが、よく判る。
そんな意味でも、この句集は、とても凝った製作になるものだった。
このことからも、版元からして、この女流俳人の門出に、並々ならぬ趣向を凝らしたというべきである。 敢えて書いておく。

この本が出たときの版元・ふらんす堂社長の「ふらんす堂編集日記」というのを読んでもらいたい。
ここには、この俳句会「鷹」主宰・小川軽舟の「序」文から、加藤静夫の「跋」文のさわりが載っている。
私が、わざわざ書かなくても、読めるからである。 (注・本文中で色が赤になっている部分はリンクになっているからクリックされたい)

ここで私と「鷹俳句会」との多少の縁(えにし)について書いておきたい。
先ず「俳人・飯島晴子のこと」という私の一連の記事(カテゴリに収録)を読んでみてもらいたい。
ご存じのように飯島晴子は「鷹」藤田湘子の同行者である。そんなことで「鷹」ないしは藤田湘子のことはずっと前から意識の中にあったのである。

周辺をぐるぐる廻るのではなく、そろそろ本題に入りたい。

著者の折勝家鴨(おりかつ・あひる)さんは、昭和37年(1962)生まれ、横浜市在住の俳人である。女性である。
平成15年(2003)「鷹」に入会し藤田湘子に師事、平成17年(2005)に小川軽舟に師事、平成20年(2008)「鷹」同人、平成24年(2012)「鷹新葉賞」を受賞されている。
平成27年から「事業部長」を務めている。どんなことをやるのか私には分からないが、いろんな会としての事業の設営などの「下積み」をするらしい。
平成30年に第14回日本詩歌句随筆評論大賞俳句部門努力賞を受賞されている。
生年から勘定してみると、もう五十歳代ということになり若くはない。
本句集は2003年から2016年までの13年間の作品を収録した第1句集である。序を小川軽舟主宰、跋を加藤静夫さんが寄せている。
彼女の現実の姿を彷彿させるために、この本の「跋」に書かれた加藤静夫の文から、少し引く。  ↓

「もちろん俳句が注目されたわけではなかった。吟行の際のファッションが只事ではないのである。………
折勝家鴨は紐ワンピ(細い肩紐のワンピース)の裾をひらひらさせながら、踵の高い靴で平然と野山を闊歩するのだ。
ある時は胸元が大胆にカットされたブラウス、またある時は膝上数センチの革のミニスカート……、
俳句の神様も赤面するようなファッションに、私たち鷹衆は吟行のたびに度肝を抜かれ胸を痛めたものである。」

センセイショナルな引用であったかも知れないが、私が勝手に言っているのではないので、お許しを。
題名「ログインパスワード」がネット用語であるように、現代のツールを駆使する才女であるらしい。

「目次」は
第一章 市松模様
第二章 大陸
第三章 ラブホテル
第四章 多肉植物     となっている。

作品を見てみよう。

 *働く日数えてしだれざくらかな  
 *山桜夜はきちんと真っ暗に
 *かんたんによろこぶおたまじゃくしかな
 *わたくしは女キャベツの葉をめくる

これらが小川軽舟の先ず引く作品である。  そして

 *梅白し死者のログインパスワード 
 
出世作という一句。 これが句集の題に取られている。 現代を言い表して、過不足がない。これについては後でも書く。

  *桜咲く金を遣いに東京へ

 この感覚、よくわかる。 田舎暮らしの私には、「金を使いに」という感覚はないが、地方から来た人にある実感なのだろう。
 
  *沈黙を待って三分ヒヤシンス

 喫茶店か何かの相対の席、相手を思い口を開くのを待っているが三分が限度というのだ。この沈黙を句にできるのか、と驚く。
 上手い。 きっと、ヒヤシンスが咲いていたのだろう。 

  * 良き夫の基準まちまちジギタリス

 ジギタリスの何であるかを知ると、少し怖い句。花は美しく観賞用に置く人もいる。 

  *十七歳年下の彼胡桃割る

 単純に彼の若さと逞しさに称賛の声をあげたのだろう。 詠み手の歳を取ったと感じ始めた感覚に共鳴する。

  *日が落ちて妻となりけり冬薔薇

 切り替える必要あり、職業婦人と妻。よくわかる。「日が落ちて」フルタイムで目一杯の感じが出ている。冬薔薇に両立への矜持  が現れている。

  *太陽を描くクレヨン昭和の日

 この句によって想起されるもの、昭和の子供の持つクレヨン、大体の子はお日さまを描くとき、赤かオレンジ、ちょっと変わった子がいて、黄色・緑・黒、心理分析なんかしていたなあ。

  *わたくしは女キャベツの葉をめくる

 すごく共感する。「女は作られる」と言った思想家がいた。普段女と思って行動しているわけではないが、「わたくしは女」そう思う瞬間のひとつがこれだ。

  *雪兎家族はガラス戸のむこう

 不思議な暖かさが感じられた。ガラス戸で遮られていても、視線や灯り、この場面では、雪兎を作る子供は外にいてほしい。

  *うららかや開けて嬉しきコンビーフ

 この句にも大共感。独身の一人暮らしで、遅く起きたときのブランチを思い出す。コンビーフの缶は、開けるのに技と時間が必要なのだ。

  *働く日数えてしだれざくらかな

 なぜしだれざくらなのだろうか?働く日を数えるのはなぜなのか。こう言うとき読み手は、自身の経験に照らし合わせるしかすべがない。
桜咲く頃、家庭には状況の変動が起こる。夫の転勤、子供の進学進級。主婦が今の仕事をやめざるを得なくなる。
日ごと膨らむ桜の蕾、しだれざくらの花時は遅い。仕事に来るのはあと何日?

  *露の世や畑のなかのラブホテル

 この光景は私のすむ町から近い奈良大阪の府県境にもある。「露の世」この言葉が、佳い。

  *鳥籠を十月の風通りけり

 この鳥籠に鳥はいるのだろうか?多分、空。だから気づいた。そう思って読んだ。秋のさっぱりと透き通る涼感が感じられた。

  *引越のトラックに乗る今日の月

 どんな事情かは知らぬが、最後は荷物と一緒にトラックの助手席に乗るような引っ越し。
俳人冥利につきるのは「今日の月」に気づいたこと。嬉しさが最後に浮き出る。

  *雛の日やつんと冷たき除光液

 女性独特の句。 一日の終わりの爪の手入れ。

  *子の恋は子供産む恋雪間草

 本能に任せる恋の結末、浮き世の合間にふっと出されるニュース。

  *夏近し少年院の楠大樹

 建物と塀、外から見える唯一のもの、楠大樹。中でも季節感がある恐らく唯一のもの、少年達は希望を抱くのだろうか。

  *象の背の夏蝶空へ飛びたてり

 象にとっては、何でもないこと。存在もわかってないこと。夏蝶の行動が美しく、輝いて見えたのだ。

   *生きること死ぬこと春に笑うこと

 ここでは「死ぬこと」と繋げて対句表現で整えて、春の高揚感をさらに持ち上げている。

   *圧倒的多数のひとり黒揚羽

 目立ちたい。そういう願望もあるのかもしれない。それに否定的なスタンスを持っているのかもしれない。現実は圧倒的多数の中へ埋もれている。

  *梅白し死者のログインパスワード

 まず滑らかな口調に誘われ、一度口ずさむと、もう忘れられなくなる。
死者のログインパスワード?私はもう死んでしまった人が、冥界で与えられる認識符号のようなものを想像した。
ようやく辿り着き、これを与えられて落ち着く、そんな状況を、である。
他の方の解釈では、この世の残されたものの困惑を語っておられた。
多分ログインなのだからそっちだ、と思ったのだが、第一印象から離れられない。

  *文学と余りご飯と虫の声

 この作者の、主婦としての日常。

  *てのひらのどんぐり家に帰らぬ子

 夕飯の支度の時間が迫る、親が帰ろうといっても、まだという子。夕暮れの懐かしい光景である。

  *古き家の古き鏡や梅真白

平成十七年、武蔵小金井での吟行句だという。加藤静夫は、この句に彼女の成長を見た、という。

  *太陽に遠く女陰あり稲の花

この句は大胆で凄い。 開き直った成熟した女の作品である。 秀逸。

  *桐は実に奇数は次の数を待つ

これは、主宰・小川軽舟の句 「偶数は必ず割れて春かもめ」 を踏まえたものとみて間違いなかろう。

  *萩咲くや笑顔の母の近餓(ちかがつ)え

浅学にして私は、この言葉「近餓え」を知らなかった。辞書によると「飲食の後、すぐにまた食欲を催すこと。また、その人。転じて、色欲にもいう。」とある。
凄い句である。
加藤静夫も、「まさかあのアヒルから、この言葉が出て来るとは思わなかった」と書いている。 勉強されたのだろう。

とりとめもない書き方になった。

  *ヒール高きは女の自信秋気澄む
  *女から男は生まれ春夕
  *本妻は太ってもよし竹煮草
  *シクラメン夫の早寝に後れを取る

折勝さんは、見目麗しい女性らしい。 そんな自信が、これらの句に出ている。
そういう「女性」性を前面に出した、現代女性らしい句集、だと受け取った。
言い遅れたが、この句集は「新かなづかい」を採用していて若い人にも受け入れられるだろう。
爽やかな読後感の中に読了したことを書いて御礼としたい。 有難うございました。     (完)


  
コメント
コメント
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック
copyright © 2019 Powered By FC2ブログ allrights reserved.