
──新・読書ノート──
三村あきら詩集『楽土へ』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・澪標2019/05/31刊・・・・・・・
この本が贈られてきた。
山田兼士先生が「帯文」を書いておられる。
この作者は、七十歳を過ぎてから、大阪文学学校で、小説や詩を学んだらしい。
そこで山田兼士に勧められて、この詩集を編んだという。
三村あきら
1936年 岡山県の北辺に生まれる
この詩集の概要は、山田兼士の「帯文」に書かれている通りである。
この本には、全部で30篇の作品が、ほぼ見開き2ページに一篇の詩として収録されている。
少し作品を見てみよう。
枯れ野をゆく 三村あきら
仕事に疲れて呻きながら
御堂筋を南へくだり
銀杏並木に和らげられながら
南御堂に辿りつく
椎の巨木の下に句碑はある
・・・・・夢は枯れ野をかけめぐる (芭蕉)
ストレスが溜まり 吟詠すると
心労から解きほぐされた
夢を求めて枯れ野をかけめぐり
楽土を求めて呻吟し
土木を生業にして生きた
母の匂いは 土のにおい
作業服のぬくもりは 母の肌
枯れ野に 安養の祈りをささげる
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この詩は Ⅰ 楽土へ の八番目に載るものだが、ほぼ、この詩集の概略を盛った作品と言っていいだろう。
こんな詩もある。
平安な家庭 三村あきら
窓が明るんでくる カタンコトン
遠く環状線の鉄橋の響き
寝間のなかで 鉄路の音を聞き分け
その日の天候を予知し 起きる
最近 向いに高層マンションが建ち
生駒の遠景は閉ざされ 鉄路の響きは遮断
窓 窓から幼児の泣き声
虐待かと窓から身をのりだす
窓 窓から夫婦喧嘩のがなりあい
ギャンブルに敗けたら取り返せ
死ぬほど働いても何もならん
銭がすべての世の中と
平和な家庭に夢をあたえる
都構想 カジノで大儲け予告
依存症は法律が守ってくれる
ギャンブルで楽しい家庭
心寂れ カタンコトンの響きを懐かしみ
窓を見あげると 狭い青
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この詩は、今どき大阪で話題になっている「大阪都構想」を、皮肉っている。
また「幼児虐待」などの時事性にも触れていて秀逸である。
こういう時事に敏感な耳も大切にしたい。
そして大阪人には東に聳える「生駒」連山が、原風景として必須なのだが、それが懐かしく詠われている。
大阪と言っても広いから、北大阪、南大阪、あるいは和泉地方の人々には違和感があるかも知れない。
Ⅱ 望郷 には、離れてきた古里への郷愁が詠われている。
1936年生まれだから、先の大戦の記憶を濃く持つ作者である。大戦争中に少年期を過ごした。
作品を引くことはしないが、詩として情趣深く描かれていることを書いておきたい。
作者は、もう若くはないが、これからも折に触れて詩を書いてもらいたい。
ご恵贈に感謝して筆を置く。 (完)
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