
山裾に蕎麦の畑の棄てられて
開墾前の荒れ地に復る・・・・・・・・・・・愛知県・勝又祐三
この歌は角川書店「短歌」誌2017年四月号の「題詠・蕎麦」に載るものである。
蕎麦には、秋蕎麦と夏蕎麦があり、秋蕎麦は夏に蒔いて10月頃に収穫、夏蕎麦は春に蒔いて夏に収穫するもの。
生育期間が短く、痩せた土地にも育つので、山間部や高原地帯などで栽培された。
季語の「新蕎麦」は、10月頃に収穫されたものを言う。
「蕎麦の花」は初秋の季語である。 八月八日は「立秋」なので、少し早いが、これを採り上げておく。
ソバというと詠われるのは専ら「食べるソバ」のことだが、植物としての蕎麦も顧みてもらいたい。 掲出画像には蕎麦の花を出してみた。
掲出の歌は、そんな蕎麦畑が耕作放棄されて元の荒れ野に戻ってゆく様を詠っていて哀歓に満ちている。
この欄に載る一連から少し引いておく。
減反の政策の果て選ばれし蕎麦の白花田んぼを満たす・・・・・・青森県・赤坂千賀子
蒔いて挽き打ちて食みたる蕎麦の味物なき時代は贅沢だった・・・・・・東京都・斎藤洋子
出石の蕎麦は愉しや一人前五皿の蕎麦に薬味五種類・・・・・・東京都・大村森美
年越しは利尻の昆布土佐節と湯浅の醤油戸隠の蕎麦・・・・・・大阪府・梶田有紀子
十割の蕎麦粉で作りし短めの卓袱蕎麦はわが里のあじ・・・・・・香川県・玉井幸子
松江にて八雲をたどりひと休み蕎麦湯の湯気にもヘルンの浮かぶ・・・・・・福岡県・松本千恵乃
蕎麦といえば信濃追分分去れの蕎麦を食べたい妻と二人で・・・・・・茨城県・志賀和彦
新蕎麦の辛味だいこん脳攻めぴりりとしまる午後の会議は・・・・・・神奈川県・大和嘉章
蕎麦ずきの夫との暮し五十年されど今でもうどん派のわれ・・・・・・青森県・佐々木冴美
厄年といへば厄年だつたなと年越しそばを食べつつ思ふ・・・・・・広島県・熊谷純

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