
つくつくし尽きざる不思議ある山に・・・・・・・・・・・・・・・・中川宋淵
私の歌にも、こんなのがある。
法師蝉去(い)んぬる夏を啼きゆくははかなきいのちこそ一途(いちづ)なれ・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載せたものである。
法師蝉というのはつくつくぼうしのことである。
こういう虫の声や蝉の鳴き声、鳥の鳴き声などは「聞きなし」と言って、鳴き声から名前がついたりする。
つくつくぼうしも「おーし、つくつく」とも聞きなしされる。夏の終り頃から鳴きはじめる。
いよいよ夏も去るのか、という感慨の起る鳴き声である。
「つくつくぼうし」は立秋の頃から晩秋まで聞かれる秋の蝉の代表である。小型で羽は透明、体は緑かかった黒。
先にも書いたが鳴き声に特徴があり『和漢三才図会』には
「按ずるに、鳴く声、久豆久豆法師といふがごとし。ゆゑにこれに名づく。関東には多くありて、畿内にはまれなり」とある。また「秋月鳴くものなり」という。
鳴き声の面白さと、秋鳴く点に、かえって或るさびしさが感じられ、それが法師蝉の名にもこめられているようである。
歳時記にも多くの句が載っているので、それを紹介して終りたい。
高曇り蒸してつくつく法師かな・・・・・・・・滝井孝作
法師蝉煮炊といふも二人きり・・・・・・・・富安風生
また微熱つくつく法師もう黙れ・・・・・・・・川端茅舎
法師蝉しみじみ耳のうしろかな・・・・・・・・川端茅舎
飯しろく妻は祷るや法師蝉・・・・・・・・石田波郷
繰言のつくつく法師殺しに出る・・・・・・・・三橋鷹女
つくつくし尽きざる不思議ある山に・・・・・・・・中川宋淵
我狂気つくつく法師責めに来る・・・・・・・・角川源義
山へ杉谷谷へ杉坂法師蝉・・・・・・・・森澄雄
法師蝉あわただし鵙けたたまし・・・・・・・・相生垣瓜人
島山や鳴きつくさんと法師蝉・・・・・・・・清崎敏郎
法師蝉むかしがたりは遠目して・・・・・・・・高野寒甫
法師蝉雨に明るさもどりけり・・・・・・・・冨山俊雄
くらがりに立つ仏体に法師蝉・・・・・・・・三島晩蝉
黒潮とどろく岩にひた鳴く法師蝉・・・・・・・・高島茂
法師蝉なきやみ猫のあくびかな・・・・・・・・高島征夫
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