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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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鈴木牛後句集『にれかめる』・・・木村草弥
鈴木_NEW

      鈴木牛後句集『にれかめる』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                  ・・・・・・角川書店2019/08/15刊・・・・・・・・・

鈴木牛後氏とは、こういう人である。 → Wikipedia─鈴木牛後

角川俳句賞を受賞された報道などから、鈴木氏のことは注目してきた。ネット上で手に入る情報から、私のブログの「月次掲示板」に句を引いたりしてきた。
今回、頭書の本が発売されたのでアマゾンに予約注文を出しておいたのが到着した。
カバーの牛の頭部の絵は冨田美穂さんの版画だという。
Wikipediaの記事から分かるように、鈴木氏は「牛飼い」であり、六十頭の牛を飼っているという。
そういう意味で、この絵は独特の雰囲気のある佳いものである。
鈴木氏の句は、観念的に頭の中でひねくったものではなく、泥くさい生活感に溢れたもので好感が持てる。
歌人でいうと帯広にお住まいの時田則雄を思い出す。彼も農業を営みながら数々の優れた歌を発表している。

題名の「にれかめる」も特異なものである。「にれかむ」という動詞は、偶蹄目の牛、羊などが、一度呑み込んだ草を吐き戻して「反芻」することを意味している。
おまけに「にれかめる」と連体形にしてあり、この言葉の後には体言が来るわけで、それは鈴木氏の職業柄「牛」でなければならないだろう。
「あとがき」の中で、作者は
<まるで牛が反芻するように、言葉を自分の中で噛み返しながら、適当なところでふっと出してみているのかもしれません。>
と書いている。
これほど的確な題名があるだろうか。

所属される結社の主宰・黒田杏子氏の「序句」は、こうである。
     <牛飼詩人六十頭の草を干す>

私は生業にしていた宇治茶の茶問屋の余技の仕事として、大正時代から続く茶の「通信販売」に携ってきたので、北海道には多くの得意先があり、かの地の地名には詳しい。
この本によると鈴木氏は、上川郡下川町三の橋 に住んでおられるらしい。
ここは上川郡でも一番北で「天塩」と言ってもいいところ。
私の持っている地図では、一の橋までしか出ていないが、今ネットで検索してみたところ「三の橋」は下川の市街地に近い所らしい。
下川町の東には「北見山地」が南北に走っていて、山の向こうは、もう「北見」である。
雪ふかい土地らしい。
広い牧草地が拡がるが、牧草の刈り取りも機械で行われるが、刈り取った草は、これも機械でトイレットロールのように巻き取って、ビニールでくるんで防水をして野っぱらに置いておく。
以前は「サイロ」に入れて発酵させたが、今は省力化のために、ロールの中で発酵するのである。
道北を旅すると車窓から、この牧草ロールが見られる。
私事になるが、私が毎朝呑んでいる牛乳はサロベツ牛乳という名前で、この地のすぐ北にある天塩郡豊富町の産である。
そんな私事から、親しい感じを抱いたことも書き添えておきたい。
農業も畜産も環境は極めて厳しく、農家ではないが農村に住む私には、よく判るのである。
だから、普通なら俳句作り、どころではないと思うのだが、立派な俳句を作られ、かつ受賞もされて凄いことである。

余談ばかりではなく句集の鑑賞に入りたい。
「帯」裏に、自選作品十句が引かれている。
書き写してみよう。

    *にれかめる牛に春日のとどまれり
    *日も月も天塩国や大雪解
    *牛死せり片眼は蒲公英に触れて
    *発情の声たからかに牛の朱夏
    *仔牛待つ二百十日の外陰部
    *満月を眼差し太き牛とゐる
    *草紅葉歩けばひらく牛の蹄
    *雪の夜の腹をゆたかに妊み牛
    *ストーブを消せばききゆんと縮む闇
    *雪にスコップ今日と明日との境目に

この一連に、この句集が要約されていると言えるだろう。
いずれも「牛飼い」という生業に、どっしりと脚を張った秀句である。
牛の授精は、畜産試験場などから提供される優秀な種牛の精液のカプセルから雌牛の子宮に注入されて終わる。
四番目の句の「発情の声」というのは雌牛のことである。獣医が、そんな雌牛の発情期を感じとって、精液を子宮に注入するのである。
酪農家の場合、生まれてくる仔牛の雌は残して牛乳生産に使い、雄の仔は肉牛用として売られるようである。
この辺のところも、生まれてくる仔牛にとっても運命の分かれ目となる。

以下この本から私の目に止まった句を引いて終わりたい。この本の章立ては Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ となっていて「章名」は無い。

   *羊水ごと仔牛どるんと生れて春
   *牧開き牧夫たるわれ小さしよ
   *牧牛の口へ口へと夏の草
   *終戦日牛の破水のざばんと来
   *刷られたる牛の墨色秋澄めり     冨田美穂「牛の温度展」
   *冷ややかや人工乳首に螺子がある
   *トラクター停め初雪の錨とす
   *牛の眼にとほく牛ゐて牧閉す
   *オホーツクの海の重さや十二月
   *春遠き手もて牛乳捨ててをり      地震による停電などで絞った乳が出荷できず捨てられた
   *ここここと牛乳注げば飛び散る春
   *春動くるろるろるろと牛の舌
   *よくはたらく我も毒餌を曳く蟻も
   *トラクターの影にわが影ある晩夏
   *脱いでなほ思ふかたちよ冬帽子
   *堆肥舎に湯気立ちのぼる年の暮
   *初蝶は音なく猫に食はれけり
   *ものの芽や角を焼かるる牛の声
   *売物件に土の匂ひのある五月
   *牛食はぬ草の伸びゆく西日かな
   *陰裂のごとくに鹿の啼く真闇
   *ちやりぢやりとタイヤチェーンの鳴る初荷
   *仔牛の寒衣脱がせ裸と思ふ春
   *夜へ夜へ火蛾のごとくに来る記憶
   *歩くとは雪から足を引つこ抜く
   *冬ざれて牛ざざざらとわれを舐む

まだまだ佳い句があるが、きりがないので、この辺にする。
読後に快い余韻の残る一冊だった。
私も殆どの本の歌集を角川書店から出した。その打ち合わせのために何度か編集部に行った。短歌編集部の隣りに「俳句編集部」があるのだった。
今これを書きながら、そんなことを思い出していた。 
これからも生業に押しつぶされずに頑張って佳い句を詠んでいただきたい。
不十分ながら、この辺で鑑賞を終わる。      (完)








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