
諍(いさか)ひて朝から妻にもの言はぬ
暑い日なりき、月が赤いな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載せた歌である。
「諍い」とは「口げんか」のことを言う。
この歌は上4句までは、すらすらと出来たが、結句の7音がなかなか出来なかったので、半年ばかり放置してあったが、何かの拍子に、
この言葉が見つかり、くっつけた。私自身でも気に入っている歌である。
この歌は『茶の四季』の「族の歌」でWeb上でもご覧いただける。
「赤い月」というのは、月が出始めの低い位置にあるとき、または月の入りで西の空低くにあるときに、地球の表層の汚れた空気層を通過するときに、
空気に含まれる塵の作用で、赤く見えることがある。
月が中空にあるときには、めったに赤い月にはならない。
この歌は、妻と口げんかして、お前なんかに口もきくものか、とカッカしている気分のときには頭に血がのぼっているから、
赤い月が見えたというのは、絶好の舞台設定で、ぴったりだった。
歌作りにおいては、こういう、時間を置くことも必要なことである。
一旦、作った歌でも、後になって推敲して作り直すということも、よくある。
妻亡き今となっては、懐かしい作品になった。 ここで、この歌を含む一連を引いておく。
月が赤いな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
路地裏の畳屋にほふ鉾町へしとどに濡れて鉾もどりけり
ガラスを透く守宮(やもり)の腹を見てをれば言ひたきことも言へず 雷鳴
諍ひて朝から妻にもの言はぬ暑い日なりき、月が赤いな
手花火が少し怖くて持ちたくて花の浴衣(ゆかた)の幼女寄り来る
手花火の匂ひ残れる狭庭には風鈴の鳴るほど風は通らず
機械音ふつと止みたる工場に赫、赫、赫と大西日照る
季節の菓子ならべる京の老舗には紺ののれんに大西日照る
秋季リーグ始まりにつつ球(たま)ひろふ明日の大器に大西日照る
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掲出の「赤い月」の写真はWeb上で拝借したものだが、撮影者の名前(市川雄一)や撮影日時が明記されており、著作権は撮影者にあることを言っておきたい。
この写真の場合の「赤い月」は皆既月蝕という特殊な環境下での赤い月である。
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