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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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鳥の卵ひとつのみほすあけぼのへ冷え冷えと立つをとこののみど・・・小池光
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      鳥の卵ひとつのみほすあけぼのへ
           冷え冷えと立つをとこののみど・・・・・・・・・・・・・・・小池光


卵は昔は貴重品だった。
割れないようにもみ殻に入れて保存され、精がつくからという理由で、病人への見舞いによく使われた。
やや縦長の丸い形状、割れやすい殻、とりわけ内部に命を宿しているということが、豊かな象徴性を帯びる理由なのだろう。
キリスト教では復活祭に彩色した卵を飾るが、これも生命の復活・再生を表わしていることは言うまでもない。
またお隣の韓国には卵生神話というのがあり、伝説上の英雄は卵から生まれたとされているという。
卵の持つ不思議な性質が、いかに昔の人々の想像力をかき立てたかをよく示している。

はじめに、なぜ、今日「生卵」のことを書く気になったか、を言っておく。
角川書店「短歌」10月号(2015年)の「シリーズ連載・歌人の朝餉」というページに花山多佳子が、こんな記事を書いているからである。
  
    <・・・・・卵は生卵も半熟卵も食べられないので、フライパンでしっかり押しつけて焼く。
      ふんわりしたオムレツを子どもたちにも食べさせたことがない。・・・・・>

この記事から思い出すのが、同じ短歌結社の重鎮だった河野裕子が、関西人特有の「おせっかい」で、おまけに「熱々メシに生卵」をかけて食べるという人で、
結社の人々に生卵を送りつけたというエピソードを思い出したからである。
贈られた花山多佳子は、前記のような育ちの違う、食習慣の違いから多量の卵を贈られて面食らった、というエピソードである。
ご存じのように、花山は東京育ちで、高名な歌人・玉城徹の娘であり、祖父も玉城肇という学者だから、この家では「卵かけ飯」というような習慣がなかったのだろう。
はじめに書いたように昔は生卵は貴重品であり、近年まで病気見舞いには生卵を二、三十個贈る習慣があった。
「地卵」と言って、知り合いの養鶏場から生みたての、新鮮な卵を、わざわざ取り寄せたりしたものである。
こういう食習慣というのは仲々抜けないもので、肉の焼き方などでもレアかミディアムか、など難しいものである。
掲出した小池光の歌は、「生卵メシ」どころか、生卵をそのまま「呑み干す」というのである。

以下、「卵」を詠んだ歌を引いておく。  

   突風に生卵割れ、かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼・・・・・・・・・塚本邦雄

   取り落とし床に割れたる鶏卵を拭きつつなぜか湧く涙あり・・・・・・・・道浦母都子

   殻うすき鶏卵を陽に透かし内より吾を責むるもの何・・・・・・・・松田さえ子

   冷蔵庫にほのかに明かき鶏卵の、だまされて来し一生(ひとよ)のごとし・・・・・・・・岡井隆

   冷蔵庫ひらきてみれば鶏卵は墓のしずけさもちて並べり・・・・・・・・大滝和子

   ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は・・・・・・・・穂村弘

    卵もて食卓を打つ朝の音ひそやかに我はわがいのち継ぐ・・・・・・・・高野公彦

    うちつけに割つてさばしる血のすぢを鳥占とせむ春たつ卵・・・・・・・・高橋睦郎

   卵黄吸ひし孔ほの白し死はかかるやさしきひとみもてわれを視む・・・・・・・・塚本邦雄

   生(あ)るることなくて腐(く)えなん鴨卵(かりのこ)の無言の白のほの明りかも・・・・・・・・馬場あき子

   永遠にきしみつづける蝶番 無精卵抱く鳥は眠れり・・・・・・・・錦見映理子

   鮮麗なわが朝のため甃(いしみち)にながれてゐたる卵黄ひとつ・・・・・・・・小池光

   女学生 卵を抱けりその殻のうすくれなゐの悲劇を忘れ・・・・・・・・黒瀬珂瀾

黒瀬の歌では「うすくれなゐ」となっているから、卵の色は白ではなく赤玉だと思われる。
ふつう卵は白として形象されることが多い中では珍しい。
ちなみにフランスでは卵はすべて赤玉で、白いものは売っていない、と言われるが私はまだ確かめては居ない。

    卵ひとつありき恐怖(おそれ)につつまれて光冷たき小皿のなかに・・・・・・・・前田夕暮

   てのひらに卵をうけたところからひずみはじめる星の重力・・・・・・・・佐藤弓生




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