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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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書評─木村草弥詩集『修学院幻視』・・・冨上芳秀
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   草弥の詩作品<草の領域>
      poetic, or not poetic,
      that is the question. me free !
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──冨上芳秀の詩──(4)

     書評─木村草弥詩集『修学院幻視』・・・・・・・・・・・・・冨上芳秀
              ・・・・・・「詩的現代」30号2019/09掲載・・・・・・・・

敬愛する冨上芳秀氏が標記の記事を執筆されたので、当該部分を抄出しておく。読みやすいように私の独断で改行した。
全文は、別項の記事を参照されたい。 → 「ジジイの覗き眼鏡」⑤

▼木村草弥詩集『修学院幻視』(二〇一八年十一月十五日刊、澪標)
詩というものは色々な可能性があるものだなと改めて思い知らされた。改行はされているが、私などが考える詩として改行の必然性があるというのではない。
むしろ散文脈で、エッセイのような感じで内容を伝えることに主眼があるように思われる。
その圧倒的な教養と読書量、ユニークな発想とユーモア、また、歌人でもある木村草弥の短歌はすぐれたものである。
その詩の末尾に添えられて長歌に添えられた反歌のように何とも言えない情緒を湛えている。
この詩集は「Ⅰ 春の修羅」「Ⅱ 修学院幻視」の二部に分かれている。
もちろん、後者が詩集のタイトルにもなっているほど、作者の思い入れがどれだけのものかを感じさせられる。
先ず、この章の冒頭に「序詩 後水尾天皇とは?」とあって、後水尾院の年譜が書かれている。
〈後陽成天皇の第三皇子。名は政仁(ただひと。即位後、ことひと、に改める)。/慶長十六年(一六一一)、一六歳で即位。/後陽成院は弟・八条宮智仁親王への譲位を望み、父子の間は不和が続いた。―中略―延宝八年(一六八〇〉、老衰により崩御。八十五歳。/泉湧寺において葬礼が行われ、月輪陵に葬られた。〉というような記述が続くのである。
こうした記述を詩というのは、全く抵抗がないと言えばウソになるが、詩というものは自由なものであってどのようなスタイルでも可能であるという考え方に立てば、詩の枠を広げる積極的な評価を与えるべきではないかと思うのである。
内容は私にとって非常に興味深い。さて、この没年で終わる年譜的記述に次いで、後水尾院の功績や興味深い女性関係について書いている。〈和歌約二千首を収める『後水尾院御集』(鴎巣集ともいう)がある。/二十一代集以下の諸歌集から一万二千余首を類題に排列した『類題和歌集』三十一巻、/御土御門天皇以後の歌人の歌を集めた『千首和歌集』などを編集した。/叔父智仁親王から古今伝授を受けている。/和歌のほかにも立花・茶の湯・書道・古典研究など諸道に秀で、寛永文化の主宰者ともいうべき存在であった。/『玉露藁』『当時年中行事』『和歌作法』など著作も多い。/洛北に修学院離宮を造営したことは名高い。〉という記述は後水尾院が和歌についての多大な情熱と様々な文化的な研究を行ったことを記述している。
それに続く同様の情熱を傾けた女性関係についての記述は、この詩集のもっとも重要なテーマの概略予告のようなものである。
〈女性関係は派手で、男女あわせて三十七人の子を産ませている。/禁中法度を無視して宮中に遊女を招き入れたり、遊郭にまでお忍びで出かけた、と言われている。/退位して「上皇」になったからも中宮・和子以外の女性に三十人余の子を産ませ、五十六歳で出家して法皇になった後でも直らず、五十八歳で後の霊元天皇を産ませた。〉
この「序詩 後水尾天皇とは?」は、硬軟合わせた後水尾院の活躍を描いて、詩集の内容全体をを巧みに紹介している。
その活躍の時期について造詣の深い木村草弥は和歌などについての知識を示しながら、下品にならないように学問的レトリックを駆使しながら、結構奥深い女性関係の深い所まで踏み込んでいる。
非常に散文的な要素を持ちながら、この特異な志向が、この詩集のユニークなポエジーと評価すべき点なのかもしれない。
一篇が長いので全文引用は不可能なのでちょっとそのさわりを抜き出してみよう。
〈お夏は市井の遊女である/お上が遊里に遊ばれたときに 見つけて来られた/「床上手」として知られていた//お上は上皇として 直接には禁裏の公式行事にも縛られず/学問と言っても いつもあるものでなし/連歌の会も センスのある者が揃わないと面白くない/と仰せられて ますます 色道に精を出された/禁裏に詰める女は 氏素性を明らかにする者ばかりで/色事には慣れておらず お上は専ら 自分の精を放つのみであった/――略――/口を吸われ 乳首を愛撫されて お夏は喘いだ/さらに 花芯ーー豆へのお上の攻めはつづいた/(この後、引用行には何字か下げたものもあるが、煩雑と考え、空間は詰めたー冨上注)因みに 豆とはクリトリスのことをいう(閑話休題)//早乙女の股ぐらを/鳩がにらんだとな/にらんだも道理かや/股に豆を挟んだと、ナヨナ/という民謡があったらしい、と//当時流行り始めていた「笠句」の本に書かれている。お分かりかナ。//お上の舌が 容赦なく 花芯の先端を舐めつづけるので/お夏は 恥ずかしげもなく 嬌声を上げた――略――/遂に 二人は果てたのだ/お上は 甘美な射精感と/お夏は 至福の受容感と に満たされて/遂に 二人は果てたのだ/まさに 二人は合体の極致に達したのだった/激しい息遣いと けだるい倦怠のうちに/二人は布団に横たわり 高まった息遣いを 静めて/けだるい眠りに落ちた//のちに後水尾院は詠まれた//常夏のはかなき露に嵐吹く秋をうらみの袖やひがたき/「常夏の花」は撫子の異名である〉(「花芯」)省略した部分にはもっと詳しい性愛描写がある。
ただあまりにも露骨な微に入り細に渡る描写は、読者の隠微な想像力を阻害し、逆にエロチシズムを失うように思われる。
おそらく木村草弥のもっとも描きたかったのは後水尾院のあくなき性愛追及の実態であったのではないか。
作品としてのエロチシズムを結実させるには、全てを露骨に表現するのではなく、読者の想像力を刺激することによって目的を遂げるようにした方がよかったのではないだろうか。
成功したかどうかは別にして、このようにポルノグラフィであると誤解されるかもしれない危険性をも顧みず、果敢な実験的な作品を書いた八八歳の詩人、木村草弥を私は高く評価したい。
「Ⅱ 修学院幻視」は作品が長く、できるだけ全文引用をしたいと思っている私もこのように部分引用をせざるを得なかったのである(あまりにも刺激的な部分を出したくなかったという心理が働いたのかもしれないが)が、木村草弥の詩の特徴として、構造的の魅力がある。
「Ⅰ 春の修羅」の部分にその特徴を備えている「水馬」という短いすぐれた作品があるのでそれを紹介しておきたい。
〈――ナルシスの鏡を磨く水馬――宮下恵美子//水馬――あめんぼう は小さな、体重の軽い水生昆虫だから、/細く長い脚の先で、巧みに水の表面張力を利用して、/六本の脚で立って、ひょいひょいと水面を移動する。/少年は、内向的な性格で、こんな虫や蟻などの生態を、/じっと眺めているのが好きだった。/と言って「昆虫少年」というのでもなかった。//歳時記を見てみると「みずすまし」という名前が、間違って、/この「あめんぼう」のこととして呼ばれていたらしい。/「みずすまし」というのは全然別の虫であって、/1センチほどの紡錘形の黒い虫である。「まいまい」という名前がある通り、/水面をくるくると輪をかいて廻っている。/水中に潜るときは、空気の玉を尻につけている。/『和漢三才図会』には《常に旋遊し、周二三尺輪の形をなす。/正黒色、蛍に似たり》と書かれている。/「あめんぼう」(水馬)については《長き脚あって、身は水につかず、水上を駆くること馬のごとし。よりて水馬と名づく》/と書かれていて、なるほどと納得する。/「あめんぼう」という命名は、飴のような臭いがするので、この名があるという。/水馬がふんばってゐるふうでもなく/水の表面張力を凹ませてゐる 木村草弥〉
この詩は宮下恵美子の俳句に始まり、木村草弥自身の短歌で結ばれる。木村氏は六冊の歌集を持つ歌人でもある。
作品の随所に収められた短歌はなかなかのものである。
歳時記、『和漢三才図会』の引用などを駆使して自説を展開するというのはある意味、散文的ではあるが、それを和歌の抒情によって詩としてまとめ上げる構造的でユニークな詩なのである。
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長い引用になったが、部分的に引いては何だか分からないので、当該部分の全文を引いた。
冨上芳秀さん、有難うございました。

この雑誌には冨上芳秀氏の「詩」作品──「白骨化した探偵」 「長屋の人情」 「女の栽培」 「まだらな記憶」などの四篇が載っている。
いずれも冨上芳秀詩独特の面白いものだが、今回は引用を見送らせていただく。悪しからず、ご了承を。



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