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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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冨上芳秀の詩「女の栽培」ほか・・・木村草弥
詩的_NEW

──冨上芳秀の詩──(5)

      冨上芳秀の詩「女の栽培」ほか・・・・・・・・・・・・・木村草弥
               ・・・・・・「詩的現代」30号掲載・・・・・・・・・

この号には冨上芳秀の詩作品が四篇載っている。
「白骨化した探偵」 「長屋の人情」 「女の栽培」 「まだらな記憶」である。

       女の栽培     冨上芳秀

   夢を見ることは技術の問題である。しかし、何を栽培するかは、倫
   理の問題である。では、私は女を栽培しましょう。いいですね、男
   を栽培するより私は女の方が好きだ。そんなこと押し付けられては
   かなわない。私は男の方がいいのだから男を栽培するのだ。あなた
   は男だのに女ではなく男なのですか。 そうだよ。 しかし、そもそも
   私が男だと誰が決めたのだ。私は身体が男でも心は女なのだから男
   が好きなのは当然なのだ。 何が当然なものか男が女を好きになって
   も、女が女を好きになってもいいのだ。 おい、待て、 人間を植物と
   して栽培することは政府が禁じている。だから、それは犯罪なのだ。
   政府が栽培を禁じる権利はないはずだ。 そんな議論をしてから何ケ
   月かが過ぎた。私が部屋の中で栽培している女は大輪の白い花を咲
   かせた。 今では、部屋全体に生い繁った植物からは、女の笑い声が
   絶え間なく響いている。 困ったな、 この女は美し過ぎる。 だから、
   男を栽培しろと言ったのだ。 逃げろ、手が回ったぞ。 何で私のよう
   な立派な男が倫理の問題で逃げなければならないのだ。 女が笑って
   いる。 困ったこの女はあまりにも美し過ぎる。
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原文に忠実に、一行の字数も揃えて再現してみた。
この詩は、今はやりのLGBTのうちのT──つまりトランスジェンダーの問題を捉えて「詩」に昇華させている。
見事なものである。
冨上芳秀氏の最近の作品は、こういう「散文詩」の形を採っていることが大半である。
一見、突拍子もないようでいて、実は綿密に計算し尽くされた詩作なのである。

では、版を厭わずに、もう一つ引いてみよう。

        まだらな記憶     冨上芳秀

   灰色の脳の海を一匹の赤い蝶がひらひらと飛んでいく。それを黒い
   海馬が鈍重な動作で追いかけていった。大きな図体をしているけれ
   ど、うれしそうにしているのが外見にもわかる気がする。 ああ、な
   つかしいのどかな風景だなあと歩いていくと、「そんなに虫捕りばか
   りしていないで早く帰っておいで」というお母さんの声が聴こえた。
   しまった。 もう、夕飯の時間だったのか、急いで家の帰ると知らな
   い女の人がご飯の支度をしていた。「おかえりなさい、早かったのね」
   「失礼ですが、あなたはどなたさまですか」 「ああ、やっぱり痴呆が
   進んでいる。 もう私の手には負えないから先日、話し合って決めて
   いた介護施設に入所の手続きを進めることにしよう」 「思い出した、
   あなたは私の奥さんだ。 許してください。 お母さん、ちゃんとご飯
   を食べますから、明日はちゃんと幼稚園に行きますから」 そうだ、
   まちがいない。 ボケてなんかいるものか。私は少年だったのだ。真
   っ白い捕虫網を風になびかせて、今、赤い蝶を捕まえたところだ。
   すると、 辺りの景色が灰色の夜になって、海馬が死にそうな悲し
   い鳴き声を長く響かせた。
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この詩も、「許してください。 お母さん、ちゃんとご飯を食べますから、明日はちゃんと幼稚園に行きますから」という個所など、
今どき報道で問題になっている継父の幼児虐待のニュースなんかを巧みに取り込んで詩に仕立てている。
お見事なものである。

これらは、一頃、集中して読んでいた「帚木蓬生」の小説─例えば「臓器農場」のプロットと共通するところがあり面白かった。
お見事な「散文詩」に堪能したことをお伝えして鑑賞と、紹介を終わる。 有難うございました。





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